会場の一番奥にある展示室の暗がりに入ったら、画面を見つめているうちに動けなくなり、無言になってしまう──。悲しい出来事の教訓を後世に伝えるため、思い切った展示が2019年秋に行われた。
今回のデジタル活用(デジカツ)はいつもと趣が異なる。ただ、自然災害が頻発している今のタイミングだからこそ、1人でも多くの人に知っておいてほしいので、このコラムで取り上げることにした。
とにかく、下の大型ディスプレーの画面を見てほしい。赤と青の線が真っすぐに動いたり、赤と青の点が止まったままだったりする。これは11年3月11日に起きた東日本大震災の地震発生直後からの30分間に、岩手県陸前高田市の中心街で行動し、そして亡くなった人たちの最後の行動記録である。居場所が詳細に判明した1326人のデータが詰め込まれている。
地元新聞である岩手日報社による聞き取り調査を基に、最後の30分を見える化した。地元紙だからこそできる膨大な記録が、この展示のベースになっている。
この動画や画像自体は、以前からパソコンやタブレットで見ることができた。19年11月現在も、特設サイト(http://wasurenai.mapping.jp)にアップされている。岩手日報社の震災報道記事も読める。
ただし、今回のような大型ディスプレーを7台使い、半円に近い状態で陸前高田市の街を俯瞰(ふかん)して見られるようにしたのは初めてである。
動画は、米エンドポイント(End Point)が開発した大型ディスプレーシステム「Liquid Galaxy(リキッド・ギャラクシー)」を使って上映した。Liquid Galaxy はもともと、米グーグル(Google)が提供している地球上の地図情報サービス「Google Earth(グーグルアース)」などの技術を使い、グーグルの技術者らが開発したものだ。3次元のビジュアル表示が可能な、パノラマビューワーである。
Liquid Galaxyの導入例は、日本では東京大学など数えるほどしかないという。今回は被災地の立体的な航空写真や地図と人々の行動記録を重ね合わせて見せている。
小さな画面を1人で見るのではなく、大画面で街や地域全体を見渡せるようにすることで、多くの人が同時に同じ画面を見られる。データを加工して、グラフなどの3次元モデルに変換することもできる。
パノラマにして街を見てみると、また違った感情や気づきが芽生えてくる。私自身、それを展示室で痛感した。陸前高田市の中心地を動く人々の軌跡を広域に確認できる。
遺族から氏名の公開まで承諾をいただけた人については、画面にローマ字で実名まで記載されている。本当に生々しい、最後の行動記録である。