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 AGCの新研究開発棟内に完成した協創空間のお披露目会に参加したら、出てきた相手はトヨタ自動車やダイハツ工業など自動車メーカーの社員。いったい、どういうこと?

トヨタ自動車のデザイナーが、AGCの協創空間で共同研究している内容をプレゼンテーションする様子。壁中に議論の経過を張り出している(写真:日経クロステック)
トヨタ自動車のデザイナーが、AGCの協創空間で共同研究している内容をプレゼンテーションする様子。壁中に議論の経過を張り出している(写真:日経クロステック)
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スマートフォンの表面に使われるガラスに「親水加工」を施すと、その上にかなりの量の水をためられることを発見。その水を振動させて波打たせたところ。ガラスや親水加工の新しい使い道をトヨタとAGCが一緒に検討する(写真:日経クロステック)
スマートフォンの表面に使われるガラスに「親水加工」を施すと、その上にかなりの量の水をためられることを発見。その水を振動させて波打たせたところ。ガラスや親水加工の新しい使い道をトヨタとAGCが一緒に検討する(写真:日経クロステック)
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 AGCが約200億円を投じて、「AGC横浜テクニカルセンター」内に建設していた新研究開発棟「SE1棟」が完成した。棟内には、外部のパートナー企業との協創を加速させるための空間「AO(アオ/AGC OPEN SQUARE)」を設置。2020年11月19日に利用を開始し、同日にメディア向けの見学会を開催した。

 主力製品のガラスは、建築物を構成する重要な建材である。さらにAGCが力を入れる新素材の開発や普及によって、建築の可能性が広がるかもしれない。素材から建築の新たな方向性を考えるうえで、新しい研究所の訪問は絶好の機会になる。私は早朝から横浜に向かった。

AGC横浜テクニカルセンター内に完成した新研究開発棟「SE1棟」(正面)。左の建物は既存の研究開発棟で、両棟を渡り廊下でつないだ(写真:日経クロステック)
AGC横浜テクニカルセンター内に完成した新研究開発棟「SE1棟」(正面)。左の建物は既存の研究開発棟で、両棟を渡り廊下でつないだ(写真:日経クロステック)
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 SE1棟は、AGCらしくガラスをふんだんに用いた建物だ。地下1階・地上4階建てで、構造は鉄骨造。延べ面積は4万4710m2と都心の研究施設としては、かなり広い。設計者は類設計室(大阪市)、施工者はフジタだ。

 ちなみに、設計を担当した類設計室は、日経アーキテクチュアが20年夏に実施した設計事務所の調査で、建物用途別の設計・監理業務売上高が「教育・研究施設」分野で1位になっている。

 SE1棟は20年3月に竣工したが、新型コロナウイルス感染症の影響でその後の内装工事を中断した時期があった。そのため、SE1棟の目玉である協創空間AOの開設は、同年11月になった。

SE1棟は、協創空間「AO(アオ/AGC OPEN SQUARE)」(図の右側)と、従来の中央研究所に相当する社内専用エリア「SECURITY ZONE」で構成する(資料:AGC)
SE1棟は、協創空間「AO(アオ/AGC OPEN SQUARE)」(図の右側)と、従来の中央研究所に相当する社内専用エリア「SECURITY ZONE」で構成する(資料:AGC)
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 SE1棟全体の3分の1ほどを、協創空間AOが占める。オープンイノベーションに懸けるAGCの意気込みが強く感じられる充実ぶりだ。

中央の建物がSE1棟、その左が既存棟。新・旧2つの研究開発棟に、AGCの従業員だけで約1500人が勤務する計画(写真:AGC)
中央の建物がSE1棟、その左が既存棟。新・旧2つの研究開発棟に、AGCの従業員だけで約1500人が勤務する計画(写真:AGC)
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 見学会で会見したAGC代表取締役兼専務執行役員CTO(最高技術責任者)の平井良典氏は、協創空間AOを「つなぐ」「発想する」「ためす」ための場と位置付けた。

AOの位置付けを説明する、AGC代表取締役兼専務執行役員CTOの平井良典氏。「つなぐ」「発想する」「ためす」の3本柱でオープンイノベーションを推進(写真:日経クロステック)
AOの位置付けを説明する、AGC代表取締役兼専務執行役員CTOの平井良典氏。「つなぐ」「発想する」「ためす」の3本柱でオープンイノベーションを推進(写真:日経クロステック)
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3層吹き抜けのエントランスで、外部に開かれた印象を生み出す(写真:AGC)
3層吹き抜けのエントランスで、外部に開かれた印象を生み出す(写真:AGC)
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 もっとも、オープンイノベーション自体は、今では決して珍しくない。大手メーカーやゼネコンが相次いで、オープンイノベーションに乗り出している。

 社内外の人々が集まれる物理的な空間づくりは大切だ。しかし、それだけではパートナー企業に対し、AGCと組む動機づけは弱い。

 そこでAGCは素材メーカーとして、ガラスや電子部品、化学品、セラミックスなど多彩な素材とその技術開発力を提供。協創相手をAOに呼び込み、研究開発から製品化までのスピードを加速させようとしている。そのための専用ルームや設備を、4層にまたがるAOに取りそろえた。

 冒頭で紹介したトヨタの例は、最も分かりやすい取り組みだ。しかも参加しているのはトヨタだけではない。複数の自動車メーカーからインテリアデザイナーなどがAOに集結した。JAID (ジャイド、JAPAN AUTO MOTIVE INTERIOR DESIGNERS)に所属する、ダイハツ工業や本田技術研究所、いすゞ自動車、日産自動車、スズキ、トヨタ自動車の面々である。デザイナーのクリエーティビィティーとAGCの素材や技術力を融合させることを狙っている。

競合する自動車メーカーのデザイナーが一緒になってガラスなどの素材を使い、何か新しいことができないかを考える場を設けた。写真はダイハツ工業のデザイナー(写真:日経クロステック)
競合する自動車メーカーのデザイナーが一緒になってガラスなどの素材を使い、何か新しいことができないかを考える場を設けた。写真はダイハツ工業のデザイナー(写真:日経クロステック)
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