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 テレワークでBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を快適に利用するには、どうすればよいか。

 新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄された2020年。建設業界では、設計者が在宅勤務になるケースが急増した。

 ただし、大手建設会社を中心に普及しているBIMソフトは、利用時の快適さがシステム環境に大きく左右される。扱う3次元(3D)の図面データは巨大で重たいからだ。

 自宅に高速な通信ネットワークが整っていなかったり、テレワークで使うパソコンがハイスペックなものでなかったりすると、BIMがサクサク動かない状況に陥る。BIMを使う設計者なら、必ず一度はぶつかる壁だろう。

 この問題はBIMを扱う企業にとって、21年以降も大きな課題になりそうだ。そこで今回のデジタル活用(デジカツ)では、テレワークでのBIM活用で先行する東急建設のBIM推進部の取り組みを紹介したい。私は20年12月初旬、東京・渋谷にあるBIM推進部のオフィスを訪れた。

東急建設のBIM推進部でテレワーク環境を整備してきた2人。手前の女性は、ベトナム出身のグェン ティ ゴック ハン氏。日本語が話せてBIMが得意だ。奥の男性は、BIMの社内普及に駆け回ってきたベテランの越前昌和氏(写真:日経クロステック)
東急建設のBIM推進部でテレワーク環境を整備してきた2人。手前の女性は、ベトナム出身のグェン ティ ゴック ハン氏。日本語が話せてBIMが得意だ。奥の男性は、BIMの社内普及に駆け回ってきたベテランの越前昌和氏(写真:日経クロステック)
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 ここから先は、建設業界関係者にとっては聞き慣れないコンピューター用語が幾つか登場することになる。テレワーク環境の整備にはどうしてもシステムの話が欠かせないので、そこは分かりやすい表現に変えてお伝えするようにしたい。

 まず、BIM推進部が整えた環境を一言で表現すると、BIMに必要な3Dのグラフィックス処理を高速で実行できるコンピューターに自分のパソコンからネット経由でアクセスし、「あたかも手元のパソコンが高性能になったかのようにBIMをサクサク扱える状況」といえる。

 それを実現するための大事なキーワードが、コンピューター用語の「仮想GPU」と「VDI(仮想デスクトップ環境)」である。GPUはグラフィックス・プロセッシング・ユニットの略で、BIMの3D画像表現には不可欠なグラフィックス処理性能を大幅に高めたプロセッサー(コンピューターの心臓部)を指す。常時3Dデータが動くBIMソフトは、グラフィックス処理に特化した大きなコンピューターパワーがないと、ストレスを感じずに利用することができない。

 GPUを搭載するコンピューターを簡単に言い換えると、「グラフィックス処理性能が非常に高いパソコン」(高性能パソコンあるいは高性能ワークステーション)といえる。1台数百万円するのも珍しくない、ハイエンドな機種のパソコンだ。

 東急建設のBIM推進部にも、そんな高性能パソコンが数台ある。ただし、大量購入するにはコストがかかり過ぎる。スペックが高いので当然、1台当たりの価格も高い。

 そこで新型コロナによる外出自粛要請が始まる数年前から少しずつ、BIM推進部では高性能パソコンの利用とは別な方法でBIMをサクサク扱える環境を準備してきた経緯がある。それがコロナ禍のテレワークに生きた。

 肝になる技術が、先ほどの仮想GPUとVDIである。仮想GPUとは、インターネットに接続したコンピューターに搭載する(物理的な)GPUを「仮想的に幾つかに分割して、別々に利用できるようにすること」を意味する。東急建設は、米NVIDIA(エヌビディア)が提供するソリューション「NVIDIA GRID」を用いて、仮想GPUを手に入れた。

 高性能パソコンを何台も買うのではなく、設計者一人ひとりが一般的なパソコンやタブレットなどから、グラフィックス処理性能が高いコンピューターの“一部”を、ネット経由で利用できるようにしたのだ。あたかも、1台1台の普通のパソコンから、高速にBIMのグラフィックス処理をしているような(仮想的なパソコン)環境を整えた。これがVDIである。VDIを構築するには専用のソフトが必要で、BIM推進部はヴイエムウェア(東京・港)のVMware製品を使っている。

BIM画面をスクリーンに映しながら、越前氏に仮想GPUとVDIの説明を受ける私(左)(写真:日経クロステック)
BIM画面をスクリーンに映しながら、越前氏に仮想GPUとVDIの説明を受ける私(左)(写真:日経クロステック)
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