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 大林組が「次世代型生産設計図(施工用図面)」と呼ぶものは、いったいどんな図面で、建設現場でどのように使われているのか。2020年春以降、運用を開始した現場が既に6カ所あると聞き、私はそのうちの1つ、「ミツトヨ宇都宮工事事務所」に行ってきた。

 そこは、計測機器などを製造するミツトヨ(川崎市)が国内に新設する工場の建設現場だ。「(仮称)宇都宮マスタープラン(2次計画)新築工事」で建設する新工場は地上3階建て、鉄骨造である。敷地面積は約10万5000m2、延べ面積は約8000m2。工事が始まったのは20年8月で、21年6月末の完成を予定している。

 私が訪問した20年12月中旬の某日は、ちょうど鉄骨の組み立てが完了する上棟の日だった。

宇都宮市にあるミツトヨ新工場の建設現場。訪問した日は偶然、全ての鉄骨が組み上がる上棟の当日だった(写真:日経クロステック)
宇都宮市にあるミツトヨ新工場の建設現場。訪問した日は偶然、全ての鉄骨が組み上がる上棟の当日だった(写真:日経クロステック)
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新工場の完成イメージ(資料:大林組)
新工場の完成イメージ(資料:大林組)
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 次世代型生産設計図とは、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデルから施工用図面に必要な部材の外形情報や部材間の位置関係に関する情報などを直接抽出した図面のことだ。大林組は従来の建築工事では、施工に必要な意匠図や構造図、設備図を統合した2次元(2D)の施工用図面を、3次元(3D)のBIMモデルとは別に作成していた。そのため、BIMで設計を変更するたびに、施工用図面を別途つくり直すという大きな手間が発生していた。

 この無駄を省くため、大林組はBIMモデルの情報を更新するだけで施工用図面を抽出できる仕組みを整えた。そうして取り出す図面が、次世代型生産設計図である。BIMの情報が施工用図面に直接反映されるので、設計変更があっても施工用図面の修正を別に実施する必要がなくなった。

 次世代型生産設計図の運用は、大林組が推進するDX(デジタルトランスフォーメーション)の目玉の1つだ。専門部署の「次世代生産BIM課」を立ち上げ、建設現場に次世代型生産設計図の導入を本気で進めている。

 20年4月以降に着工した建設現場に、まず適用を始めた。BIMに登録されている情報が常に「最新で正しい」ものとし、「ワンモデル」で設計・施工の一貫性を保つ。

設計情報と生産(施工)情報を統合したBIMモデルから「次世代型生産設計図(施工用図面)」を抽出する。図面は原則、タブレットなどを使って画面上で見る。紙は極力使わない(資料:大林組)
設計情報と生産(施工)情報を統合したBIMモデルから「次世代型生産設計図(施工用図面)」を抽出する。図面は原則、タブレットなどを使って画面上で見る。紙は極力使わない(資料:大林組)
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 次世代型生産設計図の運用では、建設現場がそれぞれの工程フェーズで必要になる情報だけをBIMモデルから過不足なく選び出し、そのつど担当者に提供する。図面に記載する数字は、できるだけ絞り込む。色分けして、どこに注目すればよいかも一目で分かるようにしている。

 「職人が迷わずに、必要な情報を見つけられるようにした。記載する情報を厳選して図面がすっきりすれば、数字を見間違えることは少なくなるだろう」(大林組東京本店建築事業部生産設計第二部生産設計第一課の藤嶋忠副課長)。

 ミツトヨ宇都宮工事事務所では20年8~12月に、「図面の数字の見間違いによる施工ミスは起こっていない。余計な手戻りをなくせている。職人は図面のフォーマット変更にほとんど戸惑わなかった」(大林組ミツトヨ宇都宮工事事務所の岩村佳祐主任)。

次世代型生産設計図の例。職人が今見るべき寸法だけを記載して、数字の見間違いを防ぐ。色分けもして、視覚的に見やすくしている(資料:大林組)
次世代型生産設計図の例。職人が今見るべき寸法だけを記載して、数字の見間違いを防ぐ。色分けもして、視覚的に見やすくしている(資料:大林組)
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これまでの施工図(写真のスライド右)にはあらゆる数字が盛り込まれており、見間違えることがあった。右手前が藤嶋副課長、右奥が岩村主任(写真:日経クロステック)
これまでの施工図(写真のスライド右)にはあらゆる数字が盛り込まれており、見間違えることがあった。右手前が藤嶋副課長、右奥が岩村主任(写真:日経クロステック)
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 過去に長く製造業を取材していた私は、「生産(施工)情報のJIT(ジャスト・イン・タイム)提供」だなと思った。欲しい情報を、欲しいタイミングで、欲しい分(数・量)だけ職人に伝える。これなら情報を探す手間が省け、なおかつ見間違いのようなヒューマンエラー(人為的なミス)を防ぎやすい。

 次世代型生産設計図を使い始めた現場は自然に、ペーパーレスが進む。ミツトヨ宇都宮工事事務所もそうだ。図面はタブレットで見るからだ。

 大林組はBIMソフトとして、オートデスクの「Revit(レビット)」を使っている。そのビューワー機能を備えたクラウドサービス「BIM 360」を建設現場で扱うタブレットから利用し、BIMから抽出したデジタル図面(次世代型生産設計図)を閲覧する。次世代型生産設計図の作成は、Revitの標準機能だけで実現している。BIMは3Dの設計データがベースになっているので、タブレットでアイソメトリック図のような立体図面を見るのも容易になった。

BIMモデルを使えば、2Dの紙の図面に縛られず、1フロアを1枚の全体図で表現するのも簡単だ。アイソメトリック図などを表示できる利点がある(資料:大林組)
BIMモデルを使えば、2Dの紙の図面に縛られず、1フロアを1枚の全体図で表現するのも簡単だ。アイソメトリック図などを表示できる利点がある(資料:大林組)
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 ミツトヨ宇都宮工事事務所では、建設現場に紙の図面の束を持ち込むことがなくなった。私はタブレットで次世代型生産設計図を見せてもらったが、白黒が主流だった紙の施工図から、画面はカラーになって色分けもされている。直感的で見やすく、理解しやすい。例えば、鉄骨だけ色を変えて表示するのも簡単だ。

建設現場にタブレットを持ち込み、次世代型生産設計図を見るのが当たり前になった。Revitのビューワー「BIM 360」を使って、デジタル図面を閲覧する(写真:日経クロステック)
建設現場にタブレットを持ち込み、次世代型生産設計図を見るのが当たり前になった。Revitのビューワー「BIM 360」を使って、デジタル図面を閲覧する(写真:日経クロステック)
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 図面がデジタルになっても、資料などの回覧が紙のままでは現場のDXは中途半端なものになる。そこで回覧物も電子化したうえで、押印はやめてデジタルサイン(電子署名)で済ませるようにした。いわゆる、はんこレスだ。

現場での資料回覧も電子化した。これまで回覧物は紙で扱い、目を通したら各自が表紙に押印して次の人に回していた。それをなくし、電子化した資料へのデジタルサインに移行した。表紙のサインはiPadからペン入力したもの(資料:大林組)
現場での資料回覧も電子化した。これまで回覧物は紙で扱い、目を通したら各自が表紙に押印して次の人に回していた。それをなくし、電子化した資料へのデジタルサインに移行した。表紙のサインはiPadからペン入力したもの(資料:大林組)
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