コネクテッドカーや自動運転、シェアリングサービス、タクシー配車など、インターネット技術とAI(人工知能)によって交通システムが大きく変わろうとしている。人の移動だけでなく、物流や小売りをはじめ様々な業界に関わる交通システムは5年後にどうなっているのか――。カーシェアリングサービス「Anyca(エニカ)」、交通事故削減支援サービス「DRIVE CHART(ドライブチャート)」、タクシー配車サービス「MOV(モブ)」など交通関連サービスを各種展開するディー・エヌ・エー(DeNA)の中島宏氏に、現状のレベルとその変革の規模を尋ねた。(聞き手は、森側 真一=日経BP総研 イノベーションICTラボ 上席研究員 兼 ビジネスAIセンター長)
交通システムに関わるAIやIoT(インターネット・オブ・シングズ)の活用は現状どうなっていますか。
様々な業界で交通システムの課題を解決すべく、サービスの提供や実証実験が進んでいます。大きなところでは、自動車業界での自動運転の実証実験をはじめ、タクシー業界における需要予測および配車システム、レンタカーやカーシェアリングのマッチングサービス、などが挙げられます。
これらは、それぞれの業界で抱える課題があり、それを解決しようとする動きです。例えば、タクシー業界は乗務員不足であり、稼働率を上げる必要があります。レンタカー業界は成長産業で人手不足となっており、店舗のオペレーションが回らなくなってきています。自動車業界は個人が所有するマイカーが売れなくなり、若者離れが進んでいます。
しかも、こうしたマイカー、タクシー、レンタカー、バスや鉄道も含め、交通システムに関わる各種業界の課題は、互いに関連してきています。AIをはじめITの導入や環境の変化によって、それぞれのサービスの垣根がなくなっているからです。
交通システムに関わる各種業界は、AIやインターネットを活用したサービスへの構造変革が必要になってきています。インターネットの常時接続を持つコネクテッドカーという“モノ”だけでは大変革までは起こせません。ユーザーにとっての付加価値を高めるには、もっと高度なサービスを提供する必要があります。そして、サービスになれば、売り上げの立て方やコスト構造も変わります。例えばコストは、製造コストよりも、マーケティングやサーバーのコストなどが重視されます。
サービス化に舵(かじ)を切る必要がある各種業界はどのように変わりますか。
既存企業は従来のモノを売るような考え方で臨むと、“浅い”内容のサービスになりかねません。インターネットサービスの世界から見たサービスを考えていく必要があるでしょう。
例えば、フィジカル・インターネットや、オンライン・マージ・オフラインといった概念があります。デジタルの世界で進んできた改革ノウハウを用いて、リアル業態のサービスを設計し直す、といった意味です。米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)のコンビニ店舗「Amazon Go」などが代表例でしょう。交通システムのサービスにおいても、インターネットで培ったようなデータを活用したマッチングや需要予測などを前提にしたサービスを提供するようになります。“データそのものがビジネス”といった世界観を持つことが重要です。
これはインターネットの世界では、20年かけて実現してきたもので、単純ではありません。今の段階から1歩も2歩も越えていかなければ、ユーザーの満足を得られないでしょう。
例えば、タクシーの需要予測をすれば乗務員の稼働率が上がる、といったものではありません。「今の時間は駅前に待っている人が多い」といった情報は、乗務員のほうがAIよりも分かっています。もっと人よりも深い情報を提供できなければなりません。「昼前、もうすぐ大雨が降るので運転手は今のうちに昼飯を取っておくべきだ」など乗務員のシフトへの支援まで行うようなAIが求められます。
課題解決に向けたトータルな解が必須です。それをユーザー体験(UX)として十分な形で実現するには、乗務員の行動を理解しているエンジニア、AIエンジニア、アプリ開発エンジニアなど人材およびチームが必要です。DeNAではタクシー業界向けサービスだけで数十人を投入しています。