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(撮影:黒田 菜月)
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(撮影:黒田 菜月)

 「水を極める」ことを企業理念とし、水処理装置などの製造・開発を手掛ける栗田工業が宇宙へ――。同社は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とともに宇宙空間における水の100%リサイクル技術の実現に取り組んでいる。なぜ、宇宙空間での100%リサイクルを目指すのか。どのようなイノベーションにつながるのか。JAXA理事・有人宇宙技術部門長で、宇宙飛行士の若田光一氏が、栗田工業の執行役員・イノベーション推進本部長である森博明氏と、宇宙空間での水リサイクルの可能性について議論した。

地上での水再生の実績を宇宙でも生かしたい

若田 JAXAは国際宇宙探査に向け、有人滞在技術や宇宙ステーション補給機「こうのとり」を使った深宇宙での補給技術、高い精度で月面に到達できる着陸技術、そして有人与圧ローバー等による重力天体での探査技術といった4つの技術分野について研究開発を進めています。

 そのうちの1つである有人滞在技術に関連したものとして、水のリサイクルに関わる実証実験を、2019年度中に栗田工業と共同で実施する予定です。JAXAの国際宇宙ステーション(ISS)実験棟「きぼう」での実証です。

 私たち栗田工業は「水を極める」という企業理念を掲げています。その実現に向けて、さまざまな研究を重ねてきています。水分子以外にほとんど不純物を含まない「超純水」は、そうした研究の成果の1つで、半導体や液晶パネルの製造などに使われています。水のリサイクルについても、ほぼ100%に近い形での再利用が可能になってきました。

 「きぼう」での実証は、さらに水を極めるためです。宇宙という、いわば究極の環境で水をどのように扱えるか、JAXAの力を借りてチャレンジしたいと考えています。

若田 宇宙に行くには、打ち上げコストがかかります。例えば地上から400kmくらい離れた地球低軌道にあるISSに行く場合に比べると、月に行くには約10倍のコストがかかります。火星に行くとなると、コストはもっとかさみます。実は、そうしたコストの多くを占めるものに、水や空気の生成・維持・運搬費用があります。水や空気を効率よく再生利用できれば、さまざまなミッションを進めやすくなるわけです。

 私がISSに滞在していた頃、NASAの水再生率は約80%でした。JAXAでは、宇宙での水再生率を90%以上にまで高めたいと考えています。そこで有用なのが、栗田工業が持つ地上での水の完全再生技術です。

 森さん、宇宙での水再生で特に難しいのは、どのような点ですか。

 水処理装置に使っている個々の技術は、それぞれ地上では実績があります。しかし、宇宙空間となると話は別です。宇宙の環境では極限まで性能を引き出せません。低消費電力でも問題なく稼働させるにも、いろいろと問題があります。

 特に、安定稼働、信頼性といった部分は未知数です。短期的な運用でよいのなら、技術面の策はすぐに得られるでしょう。ただ、ある程度長い期間稼働させ続けると、高負荷になりますし、ほかにもさまざまな影響が出てきます。このため、もともと2015年を完成目標として研究してきたのですが、まだ問題を解決しきれていません。ずいぶんと計画が遅れてしまいました。

 しかも、これもまだ地上での実証システムの段階です。実際に宇宙に行ってデータを取ると、もっといろいろな問題が見えてくるのではないかと思っています。

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