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 2025年に日本だけで2000社のユーザーがいるといわれる欧州SAPのERP(統合基幹業務システム)パッケージ「SAP ERP(旧製品名R/3)」のサポート期間が終了する。引き続きサポートがある状態でSAPのERPパッケージを利用するためには、別製品であるERP「S/4HANA」に移行する必要がある。いわゆる「SAPの2025年問題」だ。

 SAPのクリスチャン・クラインCOO(最高執行責任者)は「S/4HANAはデジタル時代の経営基盤として設計された新製品。SAP ERPの延長ではなく、新規にS/4HANAを導入してデジタル時代の経営を実現してほしい」と訴える。一方でERPを更新するユーザーの負担は重く、2025年まで様子見のユーザーも多いのが実態だ。

 では様子見のユーザーは2025年までに何もせずに、デジタル化時代から取り残されることになるのだろうか。以下では、S/4HANAへ移行せずにSAPのERPパッケージを基盤にしてデジタル化を進めた企業の事例を紹介する。この取り組みも、SAPの2025年問題の解決策の1つといえる。

中国の工場の状況をリアルタイムに把握

 SAPのERPを基盤にリアルタイムで工場の稼働状況や生産状況を把握する。いわば「スマートファクトリー」ともいえるシステムを2019年5月から中国と台湾の工場で稼働したのが、軸受け部品などの製造を手がけるポーライト(さいたま市)だ。ERPで取得している製品の生産データと設備の稼働状況などを結び付けることで、「不具合の発生を『現行犯』で見つけられるようになった」とポーライトの安部良夫取締役経営改善室部長は話す。

ポーライトが製造する自動車部品
ポーライトが製造する自動車部品
(画像提供:ポーライト)
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 ポーライトではSAP ERPのデータと設備データを統合することで、工場のラインが停止した場合に「どの製造指図書のどの製造番号に基づいて作っている製品が影響を受けたのか」などがすぐに分かるようになった。生産計画や生産実績はERPで管理している。実際に生産計画に基づいて実行している製造工程のデータはERPに入っていないため、ラインの稼働率や歩留まりまではERPに蓄積したデータだけでは分からなかった。

 そこでERPが持つ生産計画や生産実績のデータと設備の稼働状況を結び付けることで、生産の計画から製造工程、そして実際に製造した実績まで一貫して見える化できるようになる。想定よりも生産実績が少ない場合、どのラインが停止したのか、ラインが停止した理由はなにか、などが明らかになる。

 このようにリアルタイムで工場の状況を把握するシステムを実現するのは簡単ではない。設備の稼働状況のデータは設備を制御するソフトウエアや、設備に設置したセンサーなどから取得するのが一般的だ。これはIoT(インターネット・オブ・シングズ)の領域だ。

 一方で生産計画や実績などのデータはERPに蓄積される。工場の機器がどの程度稼働し、その結果として実際に生産できた製品は何個か。これを明らかにするためには設備の稼働データと、ERPの製造データという異なる2つのデータを組み合わせなければならない。

 ERPはSoR(システム・オブ・レコード)といわれる基幹系システムの構築に利用する。工場の稼働状況を把握するシステムはデジタル化を推進するためのSoE(システム・オブ・エンゲージメント)の領域だ。通常はSoRとSoEのシステムは導入を主導する部門も導入時期もバラバラになる。

ERPのデータの即時性をアップする

 ポーライトも以前はERPのデータと工場の稼働状況のデータは全く別に蓄積していた。生産の進捗は手書きの報告書で管理し、翌日の午後になるまで分からない状況だった。

 これを「ほぼリアルタイムで分かるようにした」(安部部長)のが、ポーライトが構築したシステムだ。SAPの製造情報向けのデータ統合ソフト「SAP MII(Manufacturing Integration and Intelligence)」を利用し、工場の様々な設備データをSAP ERPのデータと統合して分析できるようにしたのだ。「結果を示すERPのデータに稼働状況を加えることで、ERPに蓄積したデータのリアルタイム性が増す」(同)という。

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