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 「全然働いてくれない」「やる気が感じられない」。年上のベテラン社員を部下に持つ30~40代には、ベテラン社員に対してこんな不満を感じている人が少なくないようです。

 ベテラン社員のやる気を阻害しているのはいったい何なのか。原因を探りたくても、30~40代のマネジャーがベテラン社員の心中を推し量るのは容易ではありません。定年が65歳に延長された企業の場合、40歳の課長から見た60歳の部下は20歳年上。親子と言っても不思議ではない年齢差があります。

 「なぜやる気を出せないのか」と面と向かって聞くのも難しいでしょう。原因が分からずに不満だけがたまり、マネジャーのいらだちは募ってしまいます。

 こうしたとき、部下理解のヒントになる理論の1つが、米国の心理学者であるアブラハム・マズローによる「欲求5段階説」です。人間を「自己実現を目指して常に成長する生き物」と仮定し、人間の欲求を5つの階層で整理しています。いずれかの欲求が満たされていないことが、仕事に悪影響を及ぼしている可能性があるのです。

米国の心理学者、アブラハム・マズローによる「欲求5段階説」
米国の心理学者、アブラハム・マズローによる「欲求5段階説」
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 ここでは、この理論に基づいてベテラン部下を理解する方法を紹介します(「部下の理解」という目的に欲求5段階説を筆者なりに当てはめたものなので、かなり自己流の解釈になっていることはご容赦ください)。部下の心中を察する手掛かりにするだけでなく、面談などの場でこの図を部下の前に置いて、「どこが満たされている?満たされていないのはどこ?」と冗談交じりに対話してみてもよいかもしれません。

「住」に問題を抱えるベテラン社員がいる

 では、先ほどの三角形の図の下から順に、欲求を1つずつ見ていきましょう。三角形の下に行くほど、本能的な欲求に近いことを意味します。

 最も下にあるのが、生理的欲求です。衣食住をはじめ、人間が生きていくための生理的・肉体的欲求です。

 会社員として毎月給与を受け取っているなら、衣食住は一通り満たされているでしょう。だからこそスルーしてしまいがちですが、実は要注意なポイントがあります。筆者は製造業を中心にベテラン社員を対象にしたワークショップやセミナーを多数手掛けていますが、参加者からよく聞くのは「住」についての問題です。

 代表的なのが単身赴任。仕事の都合で家族と離れて暮らしている人からは「いつになったら自分の家に帰れるのかと不安な気持ちになる。しかし自分と同じ境遇の同僚もたくさんいるので、わがままは言えない」「単身赴任が続くと、会社にいいように使われていると感じてしまう」といった声が聞かれます。

 住に関しては、「長距離通勤による疲労」が仕事に影響を与えているケースがあります。若いうちは何も感じなくても、年齢を重ねると、毎日の通勤が肉体的にも精神的にも負担になってきます。