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前回は車両基地が水没しそうなときの在来線の電車の逃がし方を提案した。「どの基地も安全ではない」ことを前提にしていた。失敗学で言う「どんなに確率が低くても、起こり得ることはいつか必ず起こる」というやつだ。今回は基地の写真を撮り歩いているときに特に危ないところを目撃したので、視点を変えて分析してみる。

 いかにも危険なのが、JR東日本(以下JR)の川越車両センターである(図1)。危ない条件が多くそろっている。

図1 JR東日本の川越車両センター
図1 JR東日本の川越車両センター
主に埼京線の電車を収容する。数は少ないが川越線の川越より西や八高線で使う4両編成の電車もある。(筆者撮影)
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危ない5つの条件

(1)合流
 川越線が渡る荒川鉄橋注1)のすぐ上流で荒川と入間川が合流する(図2)。台風19号で決壊した堤防の8割が合流地点のそばだったことは記憶に新しい。前回に写真を見せた東京地下鉄の中野車両基地も神田川と善福寺川の合流地点のそばにあるが、荒川と入間川の組み合わせは規模感が違う。荒川の流域面積は利根川に続く関東2位。入間川は荒川の支流の中で最も長い。

注1)正しくは荒川橋りょう。
図2 荒川鉄橋を走行中の川越線から上流を見る
図2 荒川鉄橋を走行中の川越線から上流を見る
中州のように見える部分の左が入間川、右が荒川だ。(筆者撮影)
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(2)高低差
 鉄橋を渡った電車は20.5‰(パーミル、1000分の1)というかなりきつい坂で基地のある平地まで駆け下りる(図3)。水が堤防を越えるとき、水面は当然ながら堤防の高さ、つまり鉄橋を渡る線路の高さにある。明らかに基地の方が水面より低くなる。

図3 坂を駆け下りる電車
図3 坂を駆け下りる電車
電車の左に20.5‰の勾配標、その奥に、高い場所にある荒川鉄橋が見える。(筆者撮影)
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(3)堤防
 その堤防だが、橋の部分では他より2m低い。橋以外の部分は土を盛れば高くできるが、橋は架け替えないと高くできない。あふれるとすれば、真っ先にここから流れ出す。

(4)単線
 川越車両センターは単線の川越線注2)にあるのだが、主に埼京線の車両を受け持つ。埼京線という首都圏有数の通勤路線の延長線上に川越線という単線のローカル線があるわけだ。埼京線の沿線は地価が高く基地を造れないので、川越線に造ったのだろう。結果、ローカル線に不似合いな巨大な基地になった。単線だと前回示した車両の逃げ方が使えない。

注2)大宮・日進間の1駅間だけ複線。

(5)橋
 橋ができたのは1938年の6月である。同年4月に国家総動員法が公布、同年5月に自動車のガソリンが切符制になった。その次の6月である。どう考えても資材を潤沢に使った頑丈な橋ではないはずだ(図4)。基地の水没を心配する前に危険だとして橋が不通になる可能性がある。

図4 荒川鉄橋
図4 荒川鉄橋
これを見て「頑丈でない」と断定できるほど橋を見る力はないが、開通の年の経済状況を考えれば間違いなさそう。(筆者撮影)
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 首都圏のJR主要路線のうち京葉線、武蔵野線の全線、埼京線、根岸線の一部は戦後の復興期が終わってから建設したもの。他も複々線化し、前からあった複線も併せて改修した設備が多く、比較的新しい。1938年という戦前に造られた橋は少数派だ。

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