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 編集部が「THライナー」の記事を要求してきた。2020年6月6日に運転を始める「東武・日比谷ライナー」の略、東武鉄道伊勢崎線の久喜と東京地下鉄日比谷線の恵比寿1を結ぶ(図1)。あるときは座席指定料金を取るクロスシート車、またあるときは取らないロングシート車。たまには新車のことを書けということらしい。編集部は日比谷線沿線にあるから気持ちは理解できるが、あの種の車両、列車に各社が飛びつく理由が分からない。お断りしようと思ったが気が変わった。きっちり批判して代案を示す。

1 上りの2本は恵比寿行き、下りは霞ヶ関発。
図1 「THライナー」
図1 「THライナー」
「70090型」を新製した。(出所:東武鉄道)
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 前向き、または後ろ向きに座るクロスシートと、横向きに座るロングシートを切り替える車両は近畿日本鉄道が古くから走らせている。「空いているとき」「混んでいるとき」の2段階で使い分ける。空いているときはクロスシートとして眺めを楽しんでもらう。混んでいるときはロングシートとして収容力を上げる。クロスシートでも自由席で、別料金は取らない。

勝負は夕方の下り

 これを首都圏の各社が追った。東武の「TJライナー」を皮切りに西武鉄道の「S-TRAIN」2「拝島ライナー」、京王電鉄の「京王ライナー」、東急電鉄の「Qシート」と続いた。ハードウエアは同じなようなものだが、首都圏に来ると使い方が変わる。「空いているとき」「混んでいるとき」の2段階に、大阪や名古屋になかった「ものすごく混んでいるとき」を加えた3段階で使い分ける。

2 東京地下鉄、東急、橫浜高速鉄道にも乗り入れる。

 クロスシートとロングシートを切り替える座席には「デュアルシート」という呼び名がある。車両としては、近鉄が「L/C(ロング/クロス)カー」と呼ぶ。しかし運行方式まで含めた呼び名がない。首都圏方式を「変身ライナー」と呼ぶことにする。

 変身ライナーが本領を発揮するのは「混んでいるとき」、具体的には夕方のラッシュである。クロスシートで下りの指定席列車として走る。朝の上りに走ることもあるが、ラッシュのど真ん中は避ける“早朝出勤” “重役出勤”向け。本数は限られる。昼間に走る区間もあるが、休日ダイヤ限定。あくまでも重点は夕方の下りだ。運賃と別に指定席料金を取る。

 昼間の「空いているとき」は料金を取らない。変身ライナーをそのまま走らせてもよい(図2)。走らせる場合は混雑状況によってクロスシートにもロングシートにもできる(図3)。ロングシートの車両で足りるので、変身ライナーの方は車庫で休ませてもよい。

図2 TJライナー用の東武「50090型」の車内
図2 TJライナー用の東武「50090型」の車内
写真はTJライナーではなく料金不要、クロスシートの「川越特急」。つり革があり、座席指定車としては雑然としている。(著者撮影)
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図3 各駅停車として走る東武「50090型」
図3 各駅停車として走る東武「50090型」
このときはロングシート。(著者撮影)
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 朝ラッシュのど真ん中「ものすごく混んでいるとき」は変身ライナーをロングシートで走らせる(図4)。もちろん料金は取らない。首都圏ではこの時間帯、“総動員体制”である。増発の余地がないほど高い密度で運転しているので、立ち席の少ないクロスシート車を走らせて輸送力を減らすことは許されない。

図4 ロングシートとして使う(京王)
図4 ロングシートとして使う(京王)
通常のロングシートは扉と扉の間に7席ある。変身ライナーはクロスシート2席×3列がロングシートに変身するので6席しかない。始発駅で「ギリギリ座れるな」と思って並んでいる人はがっかりだろう。背もたれが窓の下から1/3程度を遮るので開放感はない。(著者撮影)
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