
アマゾンのミッションステートメントは、「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」だ。すべてのビジネスは、お客様を起点としたものとしなければならない。こうアマゾンは考えている。
そんなアマゾンで、大切にしている言葉がある。「It’s still Day One」。毎日が常に「Day One」である。すなわち、すべての日が「最初の一歩を踏み出す日」であり、「新たな挑戦を始める日」である─。これもまたアマゾンの変わらぬ理念だ。
このミッションステートメントと理念のもと、私たちは「お客様にこだわり続けること」「長期思考で考えること」「先駆者であること」を基本的な行動指針にしている。
これこそがアマゾンのイノベーションの源泉。アマゾンは創業以来、数々のイノベーションに取り組み、新しいサービスを実現してきた。
電子書籍「Kindle」、配送用ドローン「Prime Air」、音声認識サービス「Amazon Echo」、無人店舗「Amazon Go」、そして、クラウドコンピューティングの「AWS(アマゾン ウェブ サービス)」。これらのイノベーションは、「常にお客様を起点に考え、お客様に喜んでいただくために何をすればよいか」に徹底して取り組んできた結果生まれたものである。
もちろん、すべての挑戦が成功するわけではない。これまでにも、世の中に出ていない数多くの失敗があった。大切なのは、リスクを恐れず挑戦し続けることだ。
イノベーションを支えるカルチャー・メカニズム・組織づくり
イノベーションを継続的に生み出すには仕組みが必要だ。その1つがカルチャーである。アマゾンが目指しているのは「役職にかかわらず一人ひとりがリーダーである」というカルチャーであり、それを支える14項目からなる「リーダーシップ・プリンシプル」を定めている。
例えば「Bias for Action」という項目がある。これは「スピードを重視してまず行動する」という我々の指針を示したものだ。ビジネスでの意思決定には、やり直しができるものとできないものが存在している。意思決定には緻密な分析が求められるが、我々が日々直面している意思決定には、やり直しがきくものが多い。後戻りができる場合にはスピードを重視し、まず行動する。それがこの指針が意味するところになる。
お客様を起点に考えるための「Working Backwards」と呼ばれる方法論も実践している。新しいサービスや製品の企画を行う際には、対象となるお客様が誰であるか、お客様が求めているものが何なのかを理解することから始める。徹底的にお客様にこだわることで、より良いサービスが生まれるからだ。
組織づくりにも特徴がある。「Two- Pizza Team」と呼ばれているもので、2枚のピザを分けて食べるのにちょうどいいくらいの人数で、小さな組織でスピードと俊敏性を大切にするという考え方だ。これによって、一人ひとりのメンバーが自律的かつスピーディに行動して、PDCAサイクルを迅速に回し、主体性と自立性を持ち、成功に向けた取り組みを進めていけるようになる。
様々な実験を繰り返すことができる柔軟なプラットフォーム
イノベーションを支えるプラットフォームについても紹介する。アマゾンは自社の課題を解決するために「マイクロ・サービス・アーキテクチャー」プラットフォームをつくった。あらゆるサービスが細分化され、それらすべてのサービスがAPIを通じて柔軟につながる。それがこのプラットフォームの特徴だ。
この仕組みを使って、アマゾンは様々な「実験」を繰り返しながら、数々のイノベーションを生み出してきた。この仕組みを世界中のお客様にも提供しているのがAWSにほかならない。
AWSのインフラは拡大を続けている。アマゾンは現在、世界中で69のアベイラビリティゾーンというデータセンター群を運用しており、それを大きく22のリージョンに分けている。
AWSを利用しているお客様の数は、世界で数百万を超えて増加を続けている。これらのお客様と対峙し、お客様の要望を受け止める中で機能も日々拡張してきた。2018年にローンチした新サービスおよび機能改善数は1957に達する。
サービスのラインアップは現在165以上で、コンピューティング、ネットワーク、アナリティクス、ストレージ、データベース、管理ツール、モバイル、セキュリティ、機械学習、IoT デスクトップサービスなど多岐にわたる。
セキュリティもAWSにとって最優先事項の1つと捉え、高度な安全性を実現している。
イノベーションにはテクノロジーの活用が不可欠だが、AWSなら、必要なときに必要なサービスを自在かつ安全に使うことができる。事前に投資することなく、必要な機能を獲得でき、イノベーションのためのコストを削減できる。
多くの企業がイノベーションに向けたチャレンジを行っている。どうすればイノベーティブな組織でいられるかを日々考え続けているアマゾンのカルチャー、そしてイノベーションを支えているプラットフォームはどのようなものなのか。我々の取り組みが、皆様のビジネスのヒントになれば、これほどうれしいことはない。
本記事は2019年7月10日~12日に開催された「IT Japan 2019」のリポートです。