全2226文字
PR

 少子高齢化が加速する日本では、人手不足が一段と深刻化している。「ロイヤルホスト」「天丼てんや」などの店舗を展開する当グループでも、生産性の向上は大きな課題だ。外食産業には、「サービスの提供と消費の同時性」という、製造業などの産業とは異なる特性がある。

 単純に人を減らせば、サービスレベルが低下し、収益にも悪影響を及ぼしかねない。真の生産性向上を成し遂げるためには、付加価値向上と新規市場開拓、効率性向上に同時並行で取り組むことが求められる。

商品/サービスの高付加価値化で成熟市場での成長を目指す

 そのための手法も、個々の事業に応じて変えていかなければならない。例えば、市場の成長力が高く人材も相対的に供給制約が低い領域では、これまで通り多店舗化などによる規模の成長が中心になる。我々の事業でいえば、リッチモンドホテルや天丼てんやなどがこれに相当する。その一方で、ロイヤルホストなどの事業については、市場の大幅な成長は見込めないし、人手の確保も難しい。この領域では規模を追うのではなく、「質」による成長を志向していく必要がある。

 ここでは、サービスへの対価をきちんといただくことが重要なポイントだ。特に日本では、長期にわたるデフレーションで縮減し続けてきたサービス対価を拡大へと反転させなくてはならない。そのためには、価格上昇分以上の付加価値を提供し、お客様に評価していただくことがカギになる。外食産業でいえば、「国産品を使ったメニュー」「マニュアルを超えたホスピタリティ」などが、付加価値の源泉に相当する。

 もちろん、コストがかかるし、高付加価値な商品/サービスを大規模に展開するのは難しい。ロイヤルホストでは、「規模の戦略的圧縮」に取り組んだ。営業時間を短縮して24時間営業の廃止を決断し、生産性の高い時間帯にリソースを集中。その結果、お客様一人あたりの単価が上がり売り上げを伸ばすことができた。

キャッシュレス店舗の狙いは生産性向上と働き方改革の両立

 ただし、全てが丸く収まったわけではない。人手不足がさらに進むと、一度適正化したはずの価値を維持できなくなって、再び縮小均衡に陥りかねないからだ。これを避けるためには、人手に頼らずに付加価値を維持する仕組みが不可欠だ。その役割を担うのがテクノロジーではないかと考えている。

 2017年にオープンした親会社直営店「GATHERING TABLE PANTRY」は、これを確かめるための研究開発店だ。初の完全キャッシュレス化店舗ということで、話題に上ったが、目指したのはそれだけではない。「生産性の向上と働き方改革の両立」が最大のテーマである。

 そのために、店長業務を含む店舗業務のIT化やセントラルキッチンの最大活用、投資の最小化など様々な取り組みを展開。開店や閉店、清掃、管理、事務などの、直接は価値を生まない業務の圧縮に努めた。現在は、ここで得られた知見を既存店舗にも横展開し、掃除ロボットの全面導入やレジ締め作業時間の短縮など、様々な成果が上がっている。

 さらによかったのは、いろいろな企業から提案を持ちかけてもらえるようになったことだ。新しい決済手段や教育システムの実験、調理機器の共同研究など、オープンイノベーションのプラットフォームとしても機能している。

 実験店の進化も進めており、キャッシュレス店舗第2弾としてオープンした「大江戸てんや」では、メニューに使用する食材や盛り付け方をモニターにイラストで表示するシステムを構築した。「とんかつおりべ」でも多言語対応の動画マニュアルを整備するなどして、外国人やシニア層も働きやすい環境づくりを行っている。そのほかにも、食器洗浄ロボットや自動配膳ロボットの活用、AIによる需要予測分析など様々な取り組みを推進。こうした活動を通して、もっとテクノロジーで人をサポートできるようにしていきたい。

デジタル化に向けた検討を通してサービス産業の本質を再定義

 顧客満足度には、適切な提供時間や清潔な食器といった「基礎的満足度」と、臨機応変な対応、心のこもったサービスといった「付加的満足度」の2つがあると考えている。基礎的満足度の部分をテクノロジーに任せ、人が付加的満足度に力を注げるようにしていくのが、これからのサービス産業の目指すべき姿だと考える。

 何がデジタル化でき、何ができないのかは実験して初めて分かる部分も多い。人が担うべき本源的価値を考え直すことは、サービス産業の再定義にもつながる。当グループでいえば、接客について考えることは接客の再定義に、調理について考えることは調理の再定義になる。

 ひいては、店舗マネジメント全体の再定義につながってくる。産業革命は、製造や物流など多くの産業に革新をもたらしてきた。デジタル技術による第4次産業革命は、サービス産業が初めて直接メリットを享受できる革命ではないかと考えている。

 市場が成長する時代には、出店数の拡大が全てのステークホルダーの満足につながっていた。しかし、成長が鈍化し生産性が低下する時代になると、全ステークホルダーを満足させる施策を取るのが困難になってしまう。テクノロジーによるイノベーションを進めれば、こうした課題も解消できるはずだ。今後も取り組みを推進し、よりよい外食産業を築いていきたい。

本記事は2019年7月10日~12日に開催された「IT Japan 2019」のリポートです。