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 「新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、世界各国の医療機関へのサイバー攻撃は件数も身代金の額も増加している」。一般社団法人医療ISAC代表理事を務める深津博・愛知医科大学医療情報部長・特任教授は危機感を募らせる。

 2020年3月にはチェコの大学病院がサイバー攻撃を受け、院内ネットワークの遮断や手術延期などの対応に追われた。ドイツのデュッセルドルフでは患者の死亡につながる事件も起こった。2020年9月に大学病院がランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃を受け、サーバーが感染。院内システムが使えなくなり、急患の女性が30キロメートル以上離れた別の病院への搬送を余儀なくされた。同患者は治療の遅れのために死亡した。

新型コロナ感染拡大により世界でサイバー攻撃が増加 
新型コロナ感染拡大により世界でサイバー攻撃が増加 
(スイスCyberPeace Instituteの資料を基に日経クロステック作成)
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 米国でも医療機関での被害が相次いでおり、国土安全保障省サイバーセキュリティー・インフラストラクチャー・セキュリティー庁(CISA)や連邦捜査局(FBI)、保健福祉省(HHS)は2020年10月、ヘルスケア分野におけるランサムウエアを使ったサイバー攻撃者の手口について忠告する文書を公表した。

 セキュリティー大手のトレンドマイクロは2020年12月22日、「2021年セキュリティ脅威予測」と題したリポートを公開し、脅威の1つとして「医療機関を狙ったサイバー攻撃の深刻化」を挙げた。「2021年は新型コロナウイルスに対するワクチンの開発や治験、提供が進むことで、ワクチン開発関連組織へのサイバー偵察・情報窃取が懸念される」と警鐘を鳴らす。日本の医療機関も新型コロナ禍で増加するサイバー攻撃の標的となるリスクを抱える。

CT撮影のさなかに管理端末が再起動

 にもかかわらず、日本の医療機関のセキュリティーは盤石とは言えない。そんな一例が2020年12月に発覚した。福島県立医科大学附属病院は2020年12月2日、院内ネットワークがランサムウエアに感染し、放射線撮影装置の不具合で再撮影を余儀なくされた事案が2件あったと公表した。

 1件目は胸部単純CT(コンピューター断層撮影装置)で撮影しているさなかに管理端末の再起動が発生。撮影画像が保存されていなかったため、別室の装置で再撮影した。2件目は撮影した胸部フィルム画像の読み取り装置で再起動が起こった。フィルム画像を読み取れなかったため、胸部を再撮影したという。

 上記とは別に患者には影響ないところで医療機器の再起動などの不具合が発生した事案も9件あった。ランサムウエアに感染したのは2017年だったが、2020年11月に厚生労働省の照会を受けて調査した結果、これらの不具合が起こっていたことを同院のITシステムを管理する医療情報部が把握した。