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 2020年春以降、新型コロナウイルス感染症流行の対策として在宅勤務に取り組む社員の間に、心や体に不調を来すリスクが高まっている。

 身体面では、在宅勤務の環境に不備があると腰痛リスクが1.5倍程度に高まる――。この数値は労働環境と健康の相関などを研究する産業医科大学と、ヘルスケア事業などを手掛けるバックテック(京都市)が共同研究で導き出した。2021年3月1日発行予定の専門誌「産業医学ジャーナル」で発表される。

産業医科大学とバックテックの共同研究で明らかになった在宅勤務における腰痛リスクの例
産業医科大学とバックテックの共同研究で明らかになった在宅勤務における腰痛リスクの例
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 両者によると、自宅の書斎などに設けた仕事専用のスペースで在宅勤務をしているビジネスパーソンのグループに比べて、ソファが置いてあるリビングや座卓がある居間など仕事専用とは言えないスペースで仕事をしているグループは、腰痛になるリスクが1.55倍まで高まる。同様に椅子に座って仕事をしているグループに比べて、座卓など椅子以外に座って仕事をしているグループは、腰痛になるリスクが1.49倍まで高まるという。

 この結果は、製造業2社で1回目の緊急事態宣言発令後に本格的にテレワークを始めた883人を対象にアンケートを取り、回答を統計的に解析して導き出した。調査期間は2020年6~8月である。

厚労省などが在宅環境の整備指針

 「デスクワークに向く環境が家庭内に十分に整っていないと身体面に影響が及んでしまう」。腰痛リスクが高まる結果について、産業医科大学の永田智久産業生態科学研究所産業保健経営学研究室准教授はこう総括する。

 在宅勤務には書斎など仕事専用の環境を確保するのが理想的だが、難しいケースもある。「リビングにあるソファなどを使うのではなく、ダイニングにある椅子とテーブルを仕事にも使うようにするなど、可能な範囲で環境を整えていく必要がある」と永田准教授は指摘する。

 身体面の悪影響は仕事のパフォーマンス低下にもつながる。永田准教授は「企業は在宅勤務する社員に向けて、環境整備に関するガイドラインを示したり、金銭面で環境整備を支援したりする必要がある」とする。

 ガイドラインは幾つかある。例えば厚生労働省が公開する「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」や、日本人間工学会がまとめた「タブレット・スマートフォンなどを用いて在宅ワーク/在宅学習を行う際に実践したい7つの人間工学ヒント」などが参考になる。

 厚労省のガイドラインには「ディスプレーは目から40センチメートル以上、距離を取り、ディスプレーの上端は目の高さまでにする」といった内容がまとめられている。日本人間工学会のヒント集には、「在宅ワークなどで情報機器を使う場合は、20分ごとに20秒小休止を取って20フィート(約6メートル)以上先を見る」ことを意味する「20-20-20ルール」を実践することなどが紹介されている。

 永田准教授はこのほか、「腰痛や肩こりのリスクを下げるためにも、企業は在宅勤務中の社員に対して、意識して体を伸ばしたり立って移動したりするよう呼び掛けることも大切だ」と話す。一般にオフィスに出社すると会議などで社内を移動する機会が多いが、在宅勤務になると集中するあまり長時間座り続けやすい。体を伸ばすことなく長時間座り続けることも腰痛や肩こりのリスクを高める。

歩数の減少などでメンタル不調に

 在宅勤務では身体面に加えメンタル面のケアも必要だ。「在宅勤務を始めてから、外食を自炊に切り替えて食習慣が改善したり、飲酒量が減って睡眠の質が高まったりしたとする人が多い。その一方で、メンタル面で不調を来して人事担当者や産業医に相談するケースも増えている」。オンライン健康管理支援サービスを手掛けるFiNC Technologies(東京・千代田)の長田直記執行役員法人事業本部長はこう話す。

 長田執行役員が挙げるメンタル不調の要因の1つが運動量の低下だ。同社の企業向けサービスで集めた情報を分析したところ、2020年春の緊急事態宣言中、ビジネスパーソンの1日当たりの平均歩数は、発令前に比べて1000~1500歩減っていた。在宅勤務の長期化が背景にあるとみられる。

 「歩数が減ると、血の巡りが悪くなって肩こりや腰痛といった症状が出る恐れがあるほか、不安になったりうつ状態に陥ったりするメンタル面の不調にもつながる」(長田執行役員)。

 歩くなどリズミカルな運動をすると、心を落ち着かせる働きを持つ脳内の神経伝達物質「セロトニン」が多く分泌される。歩数が減ると分泌量が下がって、メンタル面の不調につながりやすくなるという。在宅勤務で減った通勤時間の一部を散歩に割り当てるなどするとよさそうだ。