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 重要システムのデータベース(DB)に米オラクルの「Oracle Database」を採用している企業は多い。より高い可用性が求められるミッションクリティカルなシステムではOracle DB独自のクラスタリング機能「Real Application Clusters(RAC)」の利用が欠かせない。RACを使えば複数のDBをアクティブな状態で稼働でき、障害が発生した際に瞬時に切り替えられる。

 Oracle DBの強みであり売り物でもあるRACが、オラクルのライセンス規定の変更により、中小規模のシステムで利用できなくなる危機が迫っている。

 オラクルはOracle DBの最新版「19c」から、小規模システム向けのライセンスである「Standard Edition 2(SE2)」でRACを非サポートとするポリシーに変えた。2016年2月に販売を終了した小規模向けライセンスの「Standard Edition(SE)」でRACを利用している場合も該当する。

 オラクルはポリシー変更の理由を明らかにしていないが、Oracle DBのパートナー企業などによれば「RACも使えるクラウド版へのシフトを推進するためだろう」との見方が大勢だ。

RACのサポートポリシーの変更を説明する日本オラクルのWebサイト
RACのサポートポリシーの変更を説明する日本オラクルのWebサイト
(出所:日本オラクル)
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 SEやSE2のライセンスに基づいてRACを利用することを通称「SE RAC」と呼ぶ。19c以降のバージョンからSE RACを利用できなくなるのだ。

 SE RACの利用企業はサポート切れまでに何らかの対策が必至で、その場合のコスト増は避けられない状況だ。

タイムリミットは最短で10カ月

 中小規模システムでの利用が多いOracle DBのバージョンは「Oracle DB 11g」や「Oracle DB 12c」だ。どちらも既に延長サポートに入っており、期限は11g(R2)が2020年12月31日まで、12c(R1)が2022年7月31日まで。「18c」は延長サポートがなく、標準サポートが2021年6月8日までだ。

 最も早く延長サポートが切れる11g(R2)の導入企業の場合、2020年末の時点で引き続きSE RACを利用できる18cに移行しても半年後にはサポートが切れてしまう。12c(R1)の導入企業も延長サポートは12cのほうが長いため、18cに移行するメリットがない。

Oracle DBにおけるRACのサポート状況
19cからRACのサポートがEEだけとなり、SE2を対象外とした。11g/12c/18cは標準/延長サポートの提供期限が迫っており、「SE RAC」の利用企業は何らかの対策が必要となる
Oracle DBのバージョンRACのサポート標準サポートの提供期限延長サポートの提供期限
19cEE(SE2が対象外に)2023年3月31日2026年3月31日
18cSE2/EE2021年6月8日なし
12c(R2)SE2/EE2020年11月20日なし
12c(R1)SE2/EE2018年7月31日2022年7月31日
11g(R2)SE/EE2015年1月31日2020年12月31日

 つまり、SE RACの利用企業は最短のケースで10カ月以内に何らかの対策を打つ必要がある。

 しかし現状、対応は進んでいないようだ。Oracle DBのパートナー企業であるシステムサポートの江川健太東京支社インフラソリューション事業部マネージャーエヴァンジェリストは「SE RACは中堅企業で基幹系システムや消費者向けサービスの基盤として使われているケースが多い。システム部門の規模が小さい企業も多く、SE RACの代替案の検討まで進めている企業はまだ少ないのではないか」と話す。