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 ITエンジニアの争奪戦がかつてないほど激化している。

 パーソルキャリアが発表した2022年12月の「エンジニア(IT・通信)」の転職求人倍率は12.09倍と全職種でトップ。前年同月比で2.21ポイント増、前月比で1.64ポイント増と人気に拍車がかかっている。2023年1月は11.17倍と前月比で0.92ポイント下がったものの、全体平均の2.34倍を9ポイント近く上回っている。

転職求人倍率の推移
転職求人倍率の推移
(出所:パーソルキャリア)
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 求人倍率高騰の背景にあるのが、事業会社やコンサルティング会社によるITエンジニアの囲い込みだ。情報処理推進機構(IPA)の調査によれば、2020~2021年にIT企業から転職した人の半数以上が事業会社に転職している。

 日本ではITエンジニアの7割がベンダー側に所属するとされ、事業会社のシステム開発はSIer(システムインテグレーター)らが人海戦術と多重下請け構造を生かしながら請け負ってきた。人手不足により同構造は今の規模では維持できなくなるとみられる。そうしたなか、同構造を支えてきた中堅・中小SIerは、給与水準を高めたり独自の付加価値を付けたりしなければ生き残れなくなりそうだ。

「ITエンジニアなら誰でも求められている」

 「ITエンジニア1人が転職活動をすると、単純に10社以上から内定が出る状態。需給のバランスはとんでもなく悪く、これほど高い求人倍率は初めてだ」――。パーソルキャリアの転職サービス「doda(デューダ)」の編集長を務める大浦征也執行役員は驚きを隠さない。「ハイスキルの人材に限った話ではない。もはやITエンジニアなら誰でも求められている状態にある」(大浦doda編集長)。

 ITエンジニア不足は今に始まった問題ではない。ただ転職求人倍率が3年で約2倍に高まるなど「人不足の深刻さは急速に増している」と大浦doda編集長は指摘する。その背景については「事業会社がDX(デジタルトランスフォーメーション)や内製に取り組むためにITエンジニア採用に力を入れていることに加え、コンサルティング会社が『丸ごと引き受けます』と、システムの(企画工程だけでなく)実装工程まで事業領域を広げてITエンジニアを採りにいっていることが大きい」と説明を続ける。

 事業会社では、例えばクレディセゾンは内製強化に向けて2019年にITエンジニアの中途採用を始めた。当時80人強だったIT部隊は2023年3月末に3倍強の260人に増える見込みだ。さらに既存社員のリスキリング(学び直し)を含め、2025年3月までに1000人とする計画を掲げる。同社は総合職とは別に、ITエンジニアらを採用する「専門職」枠を設け、スキルに応じて柔軟に賃金を決定できるようにしている。

 グループを挙げてデジタル戦略を強化するニトリホールディングスもITエンジニア採用に力を注いでいる。ITエンジニアの市場に合わせた給与を提示できるようにするため、2022年4月にITエンジニア雇用のための新会社としてニトリデジタルベースを設立。同社を受け皿に、ニトリグループ全体でITエンジニアを2023年1月時点の約350人から2032年には1000人規模まで増やす方針だ。

 ある大手小売りは2022年、人事制度に手を入れた。ITエンジニア専用の給与テーブルを新設し、既存社員の平均年収の2倍以上に当たる年収1200万円以上を提示できるようにした。これによりアマゾンウェブサービスジャパンやアクセンチュアなどからITエンジニアを次々と採用できているという。「エンジニアはとにかく争奪戦。他社に採られないよう、条件面で見劣りしない金額を提示するのは当然だ」(大手小売りの採用担当者)。