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 世界200カ国の金融機関約1万1000行が加盟する国際銀行間通信協会(SWIFT)が新たに始めた国際送金サービスについて、日本での導入が遅れている。SWIFTは今後も次々と新サービスを投入する構えで、特に地方銀行が追随できるか不安が残る。

 「世界的なトレンドである。流れに乗れなければ未導入の金融機関は国際的なビジネスから締め出されかねない」。日本銀行OBで国際金融に詳しい麗沢大学の中島真志教授はこう警鐘を鳴らす。具体的には日本企業の国際送金コストが割高になったり、送金にかかる期間が相対的に長くなったりするリスクがある。

国際送金ネットワークに新機軸

 SWIFTはかねて銀行などが使う国際送金ネットワーク「SWIFTNet」を構築し、国境をまたぐ電子的な送金メッセージの伝送サービスを提供してきた。国際送金のデファクトスタンダードであり、SWIFTNetを通じて取引される金額は3日間で世界の国内総生産(GDP)合計の1年分(約85兆ドル)に及ぶ。「FinTech企業による新たな国際送金サービスも登場しているが、今後SWIFTNetの牙城が崩れるとは到底考えられない」と中島教授はみる。

 こうしたなか、SWIFTは1977年に稼働したSWIFTNetの課題を克服するため、SWIFTNetの追加サービスとして新しいクラウドサービス「SWIFT gpi(global payments innovation)」を打ち出している。2017年から部分的にサービスが始まり、2020年末にも本格運用が始まる。gpiについて、スイフト・ジャパンのアラン・デルフォッセカントリーマネジャーは「gpiを使うとスピードと透明性、追跡性の3点を高められる。次の国際送金のスタンダードになる」とする。

 既に世界で660グループの金融機関がgpiを導入済みで、これらの銀行による国別の送金ルートは1900以上に上る。国際送金のうち、約6割がgpi経由となっており、gpiを今後導入する予定行を含めると3940行に達し、SWIFT全参加行の約3分の1を占める。

 翻って日本はどうか。SWIFTに加盟する国内金融機関約120行のうち、gpi導入済みはメガバンク3行だけ。2019年秋の時点でgpiの導入を決めたのはメガバンク3行と京都銀行の4行のみだった。

 その後増えたものの、2020年2月末時点で導入を決めたのは67行にとどまる。導入行と導入予定行を合わせた割合で見れば日本は5割超と、SWIFT全参加行の3割超をしのぐが、海外からみれば物足りない。「世界中の金融機関が日本の金融機関に早くgpiに対応するよう求めている。日本企業の多くがグローバルにビジネスを展開しており、国際送金額は世界でもトップクラスだからだ」(デルフォッセ氏)。

 取材によると対応を決めあぐねているのは地方銀行が中心だ。いずれにしろ国際ビジネスの主要国として依然として十分とは言えない状況が続いている。「後れをとらないためにも、日本の金融機関には早く対応してもらうようお願いしている」とデルフォッセ氏は話す。

対応期限まであと8カ月

 SWIFTが対応を迫るのには理由がある。全加盟行に対して2020年11月までにgpiの目玉である送金の追跡機能「トラッカー」への対応を完了することを義務付けているからだ。残りは8カ月あまりである。

 現状のSWIFTNetは送金メッセージを複数の中継銀行(コルレス銀行)が受け渡しながら受取銀行に伝送することで送金処理を進める。多い時には10行近くを経由するケースもある。にもかかわらず現状のシステムでは送金メッセージが今どこの銀行に送られているのかが分からない。

 この課題を解決し、送金メッセージがいつどの銀行を通過したかをリアルタイムで追跡できるようにするのがトラッカーだ。イメージは宅配便の荷物追跡システムの仕組みに近い。トラッカーに対応しないと、海外送金の安全性や透明性の面で顧客のニーズに応えられなくなる恐れがある。

「トラッカー」の仕組み
「トラッカー」の仕組み
(出所:SWIFTの資料を基に日経クロステック作成)
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