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 日本企業による中国オフショア開発が転機を迎えている。人件費の高騰や地政学リスクの高まりを受けて、金融機関などで中国オフショア開発の規模を縮小する動きも出始めた。インフラを担う企業が重要設備を導入する際の事前審査などを定めた経済安全保障推進法の成立が「脱・中国オフショア」の動きを加速させる可能性がある。

 「(中国のオフショア開発の見直しについて)日本の金融機関ではっきりとした動きがある」。PwCコンサルティングで地政学リスクや経済安全保障などを専門に手掛ける山本直樹パートナーはこう打ち明ける。中国の「ゼロコロナ」政策の影響もあり、オフショア開発全体に占める中国の比率が低下傾向にある日本の大手ITベンダーも出てきた。

地政学リスクなどを踏まえた中国オフショア開発への対応方針
(出所:各社への取材を基に日経クロステック作成)
企業名対応方針
BIPROGY他国の経済制裁における板挟みリスクへの対応として、法令規制に伴うビジネス制限や有事など外交問題への備え、第2のオフショアとの並走、リスク状況に応じた切り替えプランの確立を進めている
NEC現時点で政府から具体的な方針は出ていないため、今後の政府の方針を見ながら対応を検討する必要がある。関連法規・法令や顧客の指定/意向に準拠した活用を進める
NTTデータ経済安全保障については、NTTと連携しながら法令などを順守し、必要な対応を実施する
SCSK中国の状況を注視しながら活用を継続している。中国の動向については情報を収集し、リスク把握ができている状況。現時点で大きな見直しの方針はない。自社のパッケージソフトの開発などは中国だけでなくベトナムにも分散して任せる体制を整備
TIS中国集中のリスクを低減するため、ベトナムなど委託先の国・地域の選択肢を増やしていく方針
野村総合研究所オフショアについては現時点で見直しの計画はない
日立製作所中国のオフショア先を3分の1以下に絞り込んできており、リスクヘッジできている相手先と取引できている認識。委託先の国・地域を変更する考えは持っていない
富士通見直しの要否については、顧客への影響およびオフショア開発全体への影響を踏まえて慎重に判断する

10~30%の単価アップを要望

 日本企業による中国オフショア開発は2000年代初めから本格化した。日本から地理的に近いうえ、大量のIT人材を日本の数分の1の人件費で確保できる「人材の供給力」(日立製作所の奥村隆デジタルシステム&サービス統括本部調達本部調達企画部部長)が魅力だった。中国は大連を中心に日本語人材を豊富に抱え、インドなど他の国・地域に比べて言語の壁も相対的に低かった。

 中国オフショア開発の急拡大は調査からも見てとれる。情報処理推進機構(IPA)の「IT人材白書2011」における「オフショア動向調査」(IT企業向け)によると、2009年の中国のオフショア開発の規模は595億円で、2002年の98億円と比較して7年で6倍に拡大した。中国オフショア開発を手掛ける狙いとして、回答社の9割超が「開発コストの削減」を挙げた。安価な人材を求め、コーディングや単体テストといった下流工程を中心に、中国のオフショアベンダーに委託する構図だった。

 しかし、ここにきて、中国オフショア開発を取り巻く状況が様変わりしつつある。理由は大きく2つある。1つは人件費の高騰だ。中国の経済成長に伴って賃金水準が上昇しているためだ。「コスト面でメリットを出すのがなかなか難しくなっている」(PwCコンサルティングの山本パートナー)。

 SCSKは「コアパートナー」と位置付ける中国のITベンダーから日本法人経由で10~30%の単価アップの要望を受け、交渉を踏まえて、段階的な見直しを進めている。同社の河辺恵理業務役員リソース戦略センター長は「これまでにない単価アップの水準で現場は驚いている」としたうえで、「平均的に見ると日本のニアショア拠点と同程度の単価で、一部のハイレベル技術者は日本の委託先の水準を超える」と語る。

 日立の近田智行デジタルシステム&サービス統括本部調達本部調達企画部部長代理も「単価だけで見ると、間違いなく上昇基調にある」と言い切る。スキル水準が同程度の前提で2~3年前と現在を比較すると、単価は10%超上昇しているという。