政府が2021年の通常国会に提出した法案資料に誤りが多発し、中央官庁が原因究明と再発防止策に追われている。原因を探ると法案作成を効率化する新システムを構築したものの、効果を発揮させるための運用を徹底していない実態が見えてきた。
代わりに現場で重宝されたのはジャストシステムのワープロソフト「⼀太郎」だったが、誤りの原因はワープロソフトの利用そのものではない。「仏つくって魂入れず」の状態を放置してきた点は、政府のデジタル改革の先行きに不安を抱かせる。
国の最新法令データ目指した「e-LAWS」、更新が追い付かず
誤りが最初に問題となったのは、2021年5月12日に国会で可決成立したデジタル改革関連法案。「電気通信回線」とすべきところを「電子通信回線」とするなどの誤りが、5本ある新法や法改正案のうち4本で45件見つかった。国会への報告が遅れただけでなく、その後に提出した正誤表にも誤りがあり、法案審議の日程が後ろにずれ込む影響が出た。
加えて、経済産業省や文部科学省などが作成した法案でも誤りが判明。政府が提出法案の全体を再点検したところ、デジタル改革関連法案を含めて13省庁が作成した23の法案と1つの条約で、参考資料を含めて134件の誤りが見つかった。
国会で審議する法案の6~8割は現行法の改正である。各省庁はその法案づくりを、改正しようとする法律の条文を改正前後で表形式に並べる「新旧対照表」をつくることから始める。表の下側が現行法の条文で、上側が改正後の条文の原案である。
内閣法制局など関係者のチェックや文案修正も全て新旧対照表ベースで進める。内閣法制局は新旧対照表の原案に対し立法の必要性や論理整合性などを審査し、各省庁が同局の指摘を解消して原案に反映する。審査を通過すれば、現行条文をどう変えるかをまとめた「改め文」と呼ぶ法案は新旧対照表から機械的に作成できる。
この一連の法案づくりを支援する目的で、総務省は新システムの「法制執務業務支援システム(e-LAWS、イーローズ)」を富士通と開発し、2016年10月に稼働させた。当時の高市早苗総務相は新システムについて、「我が国で初めて、政府が自ら責任を持って正確性を担保・認証した法令のデータベースである」と説明し、法案作成作業を「飛躍的に省力化・効率化することで、(中略)霞が関の働き方を変える」と話した。
実際に、政府は誰でも無料で使える行政情報サイト「e-Gov」で提供する法令検索サービスに、e-LAWSの法令データベースを活用している。また法案作成の支援という点では、e-LAWSに新旧対照表を直接作成する編集機能を備えた。現行法を新旧対照表の下側に自動的に挿入し、編集画面上で改正後の条文案を入力して推敲(すいこう)できるという。
しかし法案作成の支援機能は十分に利用されているとは言いがたい。例えば内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(以下IT室)はデジタル改革関連法案を作成する際、e-LAWSを使わなかった。経産省や文科省、農林水産省なども大半の法案作成でe-LAWSを使わなかったという。