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 新型コロナウイルス感染症のまん延に対応した緊急経済対策として、国民1人当たり一律10万円を給付する「特別定額給付金」。そのオンライン申請を巡り、実務を担う各自治体から悲鳴が上がっている。最大の要因は、政府が自治体の実情を踏まえずに「迅速に給付できる」とオンライン申請を推奨した点にある。

「申請書の到着を待たずにオンライン申請を」

 「マイナンバーカードの活用等、迅速な給付システムについて検討を行う」――。政府が2020年4月7日に閣議決定した新型コロナに関する緊急経済対策で、個人への給付金についてこう記した。

 実際に給付金のオンライン申請が始まった5月1日当日、高市早苗総務相は会見で次のように述べた。「マイナンバーカードをお持ちの方は、ぜひ、申請書の到着を待たずにオンライン申請をご利用いただきますよう、お願い申し上げます」。

 オンライン申請を推奨したのには理由がある。政府はリーマン・ショック後の経済対策として2009年に定額給付金を実施した際、紙ベースの申請に全国の自治体が人海戦術で対応した結果、給付までに3カ月ほどかかるケースが続出したからだ。リーマン不況を超えるとも言われる新型コロナの景気後退に迅速に手を打つため、2020年4月1日時点で国民の16%にまで普及したマイナンバーカードを使ったオンライン申請を勧めたわけだ。

 ところが、この推奨に対して、自治体の現場からは悲鳴が上がっている。マイナンバー制度の個人向けサイト「マイナポータル」経由のオンライン申請を迅速に処理して振り込むための、各自治体におけるシステム対応が間に合っていないからだ。

給付遅れや人海戦術が相次ぐ

 特に人口100万人超の大都市から、準備が間に合わずに給付が遅れるとの嘆き節が聞こえる。

 人口109万人(2020年5月1日現在)の仙台市は国会で給付金の予算が4月30日に成立したのを受けて、5月2日に市議会で申請システムの予算が通った。5月8日時点でIT企業とシステム開発の契約を済ませたという。「大規模な申請システムなのですぐ完成とはいかない」(仙台市の情報システム担当者)。

 マイナポータルから届いた申請データを職員が手作業で処理できるのは1日100件程度が限界とみる。「本市くらいの人口だと1日1万件を超える申請が想定され、とても手作業では対応できないだろう。システムの準備が整うのを待つしかない」と前述の担当者は明かす。

表 政令指定都市における特別定額給付金の申請状況(2020年5月14日時点)
※2015年の国勢調査時点
都市人口(万人)※オンライン申請の受け付け開始日申請書の郵送開始日
熊本市745月1日5月11日
神戸市1545月1日5月14日
岡山市725月1日5月14日
福岡市1545月1日5月15日
堺市845月1日5月26日
北九州市965月1日5月下旬
さいたま市1265月2日5月下旬
川崎市1485月8日5月下旬
相模原市725月8日5月30日
浜松市805月8日6月上旬
名古屋市2305月9日5月下旬
大阪市2695月11日5月22日
新潟市815月11日5月22日
静岡市705月11日5月末
横浜市3725月12日5月下旬
広島市1195月13日5月29日
千葉市975月15日5月下旬
京都市1485月15日6月上旬
仙台市1085月18日5月25日
札幌市195未定5月18日

 183万世帯、376万人(2020年5月12日現在)の人口を抱える横浜市の情報システム担当者はオンライン申請件数を「数万~数十万件あるだろう。手作業では処理できない」とする。マイナポータル経由の申請データを処理する一連のシステムについて、5月11日時点で仕様について協議中であり、「システムの運用開始を待って、5月下旬には初回の振り込みができるようにしたい」(情報システム担当者)とした。

 2009年と同様に人海戦術で対応する自治体もある。福岡市や京都市だ。福岡市は5月11日時点でシステムが完成するまでの暫定対応として、マイナポータルから届いたデータと住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)上の住民情報との照合や入力ミスのチェックなどを、35人程度の職員が手作業で確認しているという。「少しでも早く給付金を住民に届けるための措置だ」(情報システム担当者)。