全3053文字
PR

 パソコンにバンドルするセキュリティーソフトの契約を巡り、パソコン販売店の「ドスパラ」を運営するサードウェーブと米マカフィー日本法人が争った裁判が、2022年5月25日に決着した。マカフィーが同日、東京高等裁判所への控訴を取り下げたことで、同年4月22日にマカフィー側の不法行為を認めた東京地方裁判所の一審判決が確定したことになる。

関連記事: マカフィーが控訴取り下げ、サードウェーブへの賠償命じた一審判決が確定 サードウェーブ-マカフィー訴訟の深層、裁判所が問題視した営業M氏の振る舞い
サードウェーブとマカフィーの訴訟は2022年5月25日に決着した
サードウェーブとマカフィーの訴訟は2022年5月25日に決着した
(撮影:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 東京地裁が一審判決でマカフィーに支払いを命じた賠償金は約2300万円であり、両社の企業規模に照らすと決して大きな額ではない。ただ、IT法務に詳しいシティライツ法律事務所の伊藤雅浩弁護士は「IT業界にとって大きな意味を持つ」と指摘する。ITベンダーの営業が契約のために話を盛ったり、事実と異なる説明をしたりすれば不法行為に問われるリスクがある――。同判決はこのことを示した。

「更新率40%」を期待させる説明を繰り返した営業

 同裁判は、サードウェーブ製パソコンにバンドルするマカフィー製セキュリティーソフトの契約に当たって「マカフィーが事実に反する説明を繰り返し、経営判断に誤りが生じて損害を被った」(サードウェーブ広報)として、サードウェーブがマカフィーに対して2018年10月22日付で計約16億円の損害賠償を求めて訴訟を提起したもの。

 事実に反する説明とは、同社製セキュリティーソフトをバンドルすれば更新率40%が見込め、サードウェーブはレベニューシェア(収益分配)で収益の拡大を期待できるというものだ。パソコンの購入者がマカフィーのセキュリティーソフトを更新すれば、サードウェーブは売り上げの一部を受け取れる仕組みになっていた。

 マカフィーの営業は「更新率40%」を前提とした収益の見込みをサードウェーブに示し、営業攻勢をかけた。高過ぎる更新率に疑問を抱いたサードウェーブ担当者に対して「同業のデル(現デル・テクノロジーズ)は更新率が40%」などと説明。さも実現可能なような説明を繰り返し、契約を結んだ。

 だが判決文によれば、契約後の実際の更新率は2016年前半時点でわずか7.5%にとどまった。マカフィーに支払うライセンス料を自己負担していたサードウェーブはパソコンを販売するほどセキュリティーソフトに関する赤字が膨らむ構図に陥った。大きな損害を被り、裁判を起こす事態となった。

 ここで注目すべきは、マカフィーに明確な契約違反があったわけではないという点だ。マカフィーは契約書で更新率40%をうたっておらず、サードウェーブが得られる収益も保証していない。

 それにもかかわらずマカフィーの振る舞いを不法行為と認めさせ、賠償金を勝ち取ったことは「ある意味、画期的」(伊藤弁護士)である。裁判で争う以上は、法律上何かしらの問題があったことを訴える必要がある。「サードウェーブは、この裁判で契約前の営業の説明が信義則上問題であったという点にフォーカスし、不法行為として認めさせた。正しい情報を提供していればサードウェーブは契約しなかったのだから、(マカフィーは)信義則上、正確な情報を提供する義務・責任があったと裁判所が判断したのは非常に意味がある」(同)。