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 膨大な個人データをAI(人工知能)で分析して、信用力の尺度となる点数(スコア)を算出する「現代版の信用スコア」が曲がり角を迎えている。

 ヤフーは2020年6月29日、「Yahoo!スコア」を2020年8月31日で終了すると発表した。LINEも子会社を通じて2019年6月に信用スコア事業を始めたものの、当初予定していた通りの事業開発に至らず足踏みが続く。

 現代版の信用スコアには、デジタル技術を土台にした新たな働き方やサービスを後押しするとの期待がかかる。具体的には、フリーランス技術者やネットを通じて単発や短期の仕事を受ける「ギグワーカー」、ネット経由でモノやサービスを貸し借りするシェアエコノミーなどへの後押しだ。

 新たな信用情報基盤づくりが停滞すれば、新型コロナ禍を経て進む社会のデジタル化に向けた労働力が不足しかねない。

サービス利用状況に応じてスコアを算出

 「お客さまやパートナー企業に満足してもらえるサービスの提供に至らないと判断した」。2020年6月29日、ヤフーはYahoo!スコア終了の理由をこう発表した。1年前の2019年6月にサービス開始を発表したが、実質的なサービスを始められないまま幕引きとなる。

 Yahoo!スコアとはヤフーのサービス利用状況などに応じて、スコア作成に同意した個人ごとに算出した数値である。数値に応じて各種の優遇や特典を提供するとしていた。

 飲食店やコンサートの予約手続きを簡便にしたり提供内容を優遇したりする。利用者の同意のもと、特典を提供したパートナー企業に利用者のスコアを提示する場合もある。

 ヤフーは個人向けの機能開発やパートナー企業向けのサービス開発も終了し、利用者のスコアについては8月31日までに削除する。同スコアの作成に同意したユーザーの数や想定との差などについては公表していない。

「Yahoo!スコア」の終了を告知するWebサイト
「Yahoo!スコア」の終了を告知するWebサイト
(出所:ヤフー)
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 同様に信用スコア「LINE Score」を手掛けるLINEは当初の構想にズレが生じている。2019年6月のサービス開始の発表当時、LINEは自社グループ金融に加えて個人間でモノを貸し借りするシェアリングサービスや、飲食店やホテルの予約、EC(電子商取引)など、自社以外の様々なサービスを優遇するとしていた。

 ところが現状は自社グループが手掛ける個人向け少額ローン「LINE Pocket Money」に適用するにとどまっている。外部パートナー企業へのLINE Scoreの提供は「中長期の目標だが現時点では難しい。今は金融に注力する」(運営会社LINE Creditの川崎龍吾サービス企画チームマネージャー)。スコア外部提供の開始時期は未定だ。

 現代版信用スコアの分野で気を吐く数少ない1社がJ.Score(ジェイスコア)だ。みずほ銀行とソフトバンクの折半出資で2016年11月に発足し、スコア算出と個人向け融資を手掛ける。

 信用スコア算出済みの利用者数は120万人で、同スコアに基づく累計の融資額は300億円だ。「ほぼ計画通り、順調に増えている」とJ.Scoreの向井英伸社長CEO(最高経営責任者)は話す。

利用者から批判、理解広がらず

 現代版信用スコアとはアンケートや様々なネットサービスの利用動向を基に算出した数値で、文字通り「利用者の社会的な信用度」(野村総合研究所=NRIの城田真琴IT基盤技術戦略室長)を推し量る目安の1つとなる。クレジットカードや住宅ローンなど金融分野の与信に使う伝統的な信用スコアに対して、現代版信用スコア算出にはより多様な個人データを使う。

 具体的には、利用者が自ら入力するアンケート情報に加え、利用者の同意を得て集めるネットの利用傾向データを重視する。アプリやECなどの利用傾向、ネットを通じて予約したホテルや飲食店の利用実績、SNS(交流サイト)を通じて得る他者からの評価や交友関係などだ。ただしメッセンジャーアプリやSNSの投稿文の内容や、ECで買った商品の中身などは使わない。

 現代版信用スコアを手掛ける事業者がうたう利点がパーソナライゼーションだ。利用者1人ひとりの特性に応じて提供サービスの内容をきめ細かく変えたり特典を付与したりする。

 代表例はローンの金利だ。スコアが高いほど、低い金利で借りられるようにする。

 LINE Pocket Moneyの場合、金利は平均で同業大手より4ポイント低いという。LINE Pocket Moneyは1回当たりの借入額が3万円未満の利用者が65%を占める。数万円の少額融資の場合、金利を18%などの法定上限に設定する金融事業者が多い。

 メリットがある一方、現代版信用スコアにはいわれのない差別や不条理な扱いを招くのではないかとの懸念がつきまとう。実際、ヤフーは批判を受けてつまずいた。

 「個人の情報が勝手に外部に提供されるのではないか」「IT企業が人に点数を付けるのはおこがましい」――。ヤフーが信用スコアの構想を発表した直後、ネット上でこうした批判が巻き起こった。

 批判を受けて同社は仕様を変更。当初はYahoo! JAPAN IDを持つ全利用者の信用スコアを作成するとしていたが、これを個別に同意した利用者のみスコアを作るように変えた。

 プライバシーポリシーも改定し、グループ企業に閲覧履歴や購買履歴などを提供するための同意に関する規定を新たに設けた。ただ、利用者に満足してもらえそうにないとの理由で終了を決めた点を考えると、ネット利用者を中心にした批判が最後まで尾を引いたようだ。