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 児童の虐待や孤立を行政データの分析から見つけ出す――。政府は児童の見守りに関する新たな構想を、2023年4月に発足するこども家庭庁で実現させる考えだ。仕組みづくりに向け、デジタル庁が主導して7つの地方自治体が2022年7月から順次、実証事業をスタートさせる。

 しかし現時点の想定のまま国や自治体が行政データを分析するシステムやサービスを構築しても、将来無駄になったり、児童相談の現場に無用の混乱を招いたりする恐れがある。実際に政府構想を実現させるためのデータ活用方法について、一部の専門家や地方自治体の関係者から「個人情報保護の国際的なルールに抵触する」「データによる差別を助長する」と、問題を指摘する声が出始めている。

行政データ活用に関する見解の相違
行政データ活用に関する見解の相違
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児童の見守りに、納税記録や家族の情報も活用

 一部専門家らが問題を指摘するのは、前述の実証事業「こどもに関する各種データの連携による支援実証事業」である。相談や通報だけでは発見しにくい児童の虐待や孤立、育児放棄などを、行政データを分析することで見つけ出し、いち早い支援につなげる狙いだ。

 実証事業では、学校の出席状況や成績、健康状況など校務システムで管理する児童のデータを使って分析する。さらに幾つかの自治体は世帯の納税状況や生活保護の受給など福祉の利用状況、世帯の家族構成など複数の行政データを掛け合わせて分析する計画だ。

 これに対し、「広範な行政データを使うことは問題だ」との指摘が出ている。個人情報保護法制に詳しい情報法制研究所(JILIS)の高木浩光副理事長は「『利用目的との関連性が低いデータは人間に対する評価に用いてはならない』という国際的な基準に反する」と指摘する。

 福岡市の実証事業にベンダーとして参加するGcomホールディングスの小出篤執行役員も「広範な行政データをそのまま統合して分析することは国際ルールに逸脱するリスクが高い」とする。「事業に携わる自治体は慎重にデータを運用すべきだ」(小出執行役員)。

 高木副理事長や小出執行役員らが言う「国際ルール」とは、経済協力開発機構(OECD)が定めた個人データ保護に関する8つの原則で、一般に「OECD8原則」と呼ばれる。うち1つの原則である「データ内容の原則」には、「(収集・利用する)個人データはその利用目的に関連したもの(relevant)でなくてはならない」という趣旨が盛り込まれている。

 高木副理事長によれば、OECD原則が生まれた背景には明確な「思想」があるという。「利用目的と関連性が薄いデータを人の評価に用いると、統計的な差別を生む。これを防ぐ狙いを持った原則」(高木副理事長)だ。

 デジタル庁の実証実験でいえば、校務システムで管理する児童本人の出席状況や健康状況などは児童の見守りという目的に対して、関連性が高いデータといえる。一方で、世帯の納税状況や家族構成などのデータまで使って虐待や育児放棄を発見しようとすると、「年収が低い世帯やひとり親世帯は虐待の傾向が高い」など特定のパターンに当てはまる世帯を抽出して、該当世帯への監視を強める結果になりかねない。これが「統計的な差別」を生むというわけだ。

 高木副理事長らは、OECD原則に従えば、児童相談員が参考にとどめるためであっても、利用目的との関連性が薄い個人情報を使った個人データベースを作成して世帯や児童への判定に用いることは禁じられるべきだと捉えている。ただし利用目的との関連性が薄い個人情報を統計に使うことは禁じていない。例えば「統計的な傾向を分析するならばOECD原則を逸脱しない」(Gcomホールディングスの小出執行役員)。問題になるのは世帯ごとにリスクを判定するなど、人への評価に用いる場合だ。