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 新型コロナウイルスの感染対策でテレワークが広がるにつれ、紙をベースにした業務の煩雑さが改めて浮き彫りになった。テレワークとの相性の悪さを認識した企業も多く、例えば兼松は社内のハンコや紙ベースのワークフローを撤廃するために電子決裁システムを2021年4月に稼働させた。テレワークでの業務効率を高め、年間14万枚の紙も削減できる見込みだ。

 業務の電子化と紙の削減は日本企業の生産性向上につながるとして、政府もこうした動きを後押しする。その姿勢を反映したのが2022年1月1日に施行される「電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)」の改正法だ。同法は「法人税や申告所得税を納めるといった、国税関係の帳簿書類を保存する義務がある法人・個人の全てが対象」(国税庁)である。

 経理担当者以外にはあまりなじみのない法律だが、法改正により多くの企業で領収書や請求書の取り扱い方が変わり、システムや業務で変更が必要となる可能性がある。法改正に対応できないと税負担が増える恐れもある。

法改正で領収書や請求書の取り扱い方が変わる
法改正で領収書や請求書の取り扱い方が変わる
(出所:123RF)

「電子メールで受け取って紙で印刷・保存」が不可能に

 電子帳簿保存法は正式名称にあるように、国税に関する帳簿書類の電子保存ルールを定めた法律だ。平たく言えば、「紙で保存していた帳簿書類を、一定の要件を満たせば電子データで保存してもいい」という内容だ。

 前提として、同法は帳簿書類データの保存方法を3つに区分している。会計システムなどで作成したデータをそのまま保存する「電子帳簿保存」、紙で受け取った領収書や請求書などをデジタルカメラで撮影したりスキャナーで読み取ったりして保存する「スキャナ保存」、電子メールなどで取引先から受け取った領収書や請求書などのデータを保存する「電子取引」――である。

 今回の改正で国税庁は電子データによる保存(以下、電子保存)を促進する。そのため手続きを抜本的に見直し、規制の緩和と強化の両面を盛り込んだ。

 規制緩和については、例えば電子帳簿保存とスキャナ保存にはこれまで税務署長の事前承認が必要だったが2022年1月1日からは不要となる。スキャナ保存と電子取引については電子保存時に設定する要件を大幅に緩和する。具体的にはタイムスタンプや検索の要件が緩和され、新たに電子帳簿保存法に対応する企業にとってはハードルが下がった格好だ。

 一方で注意しなければいけないのが規制強化だ。具体的には「電子取引」で規制が強化された。国税庁は法改正の概要を知らせる資料で「電子取引で受け取った請求書や領収書などのデータを紙に印刷して保存する措置を廃止する」旨を記載している。

 電子取引では電子保存が全面的に義務付けられ、電子データを印刷した書類は原本として扱えないというわけだ。現行法にのっとり、国税関連書類を紙で一元管理するなどの目的で、電子データで受け取った書類をあえて紙に印刷して保存している企業は、業務プロセスを見直す必要がある。