全2297文字
PR

 ユーザー企業がエンジニアを雇用し、システム開発を内製する動きが活発化している。ここ数年でシャープや良品計画、カインズなど業界を代表する企業が内製化に舵(かじ)を切り、エンジニアの雇用を積極的に進めている。

 米国や中国に比べてデジタル活用が遅れているとされる日本企業にとって、自らシステム開発の主導権を握る内製化という方向性が望ましいのは間違いない。だが専門家らは、きちんとした理解や覚悟がないまま拙速に内製を進めれば、再び過度な外注依存に陥るリスクがあると指摘する。

日本企業のSoE領域のシステム内製は19.3%

 日本企業は長らく、システム開発の多くをITベンダーに外注していた。ソーシング戦略に詳しいガートナージャパンの中尾晃政ソーシング/ITサービスプリンシパルアナリストによると、日本企業でシステム開発のアウトソーシングが本格化したのは1990年代後半から。米国のアウトソースブームに追従する形で日本企業がこぞってシステム開発の外注を進めた結果、社内にノウハウがたまらなくなり情報システム部門の弱体化を招いたという。

 「2000年代半ばに一部企業で内製に回帰する動きもあったが、その後リーマン・ショックが起こり、再びIT投資が抑制されて内製への動きが止まった。2010年代後半になってクラウドの浸透やDX(デジタルトランスフォーメーション)への関心の高まりに伴い、徐々に内製の動きが出始めたが、まだ緒に就いたばかりだ」(中尾氏)と指摘する。

 情報処理推進機構(IPA)が2021年10月に公表した日米調査リポート「DX白書2021」でも、顧客接点を担い変化の激しいSoE(System of Engagement)領域のシステム開発手法について聞いたところ、「内製による自社開発を活用している」と答えた日本企業は19.3%に対し、米国企業は60.2%だった。多くの領域のシステムを内製できる米国企業に比べ、日本企業は内製化への動きはあるものの、依然としてITベンダーに開発を依存する状況が続いている。

情報処理推進機構(IPA)が2021年10月に公表した日米調査リポート「DX白書2021」
情報処理推進機構(IPA)が2021年10月に公表した日米調査リポート「DX白書2021」
(撮影:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 再び内製化に向け動き始めた日本企業。しかし、その道のりは平たんではない。専門家らは内製化がうまくいかない企業の特徴として、大きく2つのワナに陥りやすい点を挙げる。

 1つ目のワナは「社内における外注状態」に陥る危険性だ。日本CTO協会の理事で、技術戦略コンサルティングを手掛けるベンチャー企業、レクターの広木大地取締役は「デジタル戦略の強化に向け、内製化の取り組みは非常に有効な手段の1つ」としたうえで、「新しい文化を取り入れる意識がなく、発注者マインドのまま内製化に取り組む企業はうまくいきづらい」と指摘する。

 社内における外注状態とは、ユーザー部門が情報システム部門にシステムを「外注」しているような状態を指す。発注者意識のまま内製に取り組めば、受発注の関係がそのまま社内で構築され、結局は外部に「丸投げ」しているのと変わらない。互いがリスクを避けるために「ITのことは分からないので情報システム部門に任せる」「ユーザー部門から文句を言われないよう納期を保守的に見積もる/言われた機能だけを実装する」などの状況に陥りやすいという。

 形だけの内製では迅速で柔軟な開発という、内製の本来の効果を発揮できないばかりか、丸投げされたエンジニアが苦境にさらされる。そしてそのような企業からはエンジニアがすぐに離れ、結果として誰も改修できないレガシーシステムが残る。再び外注依存に揺り戻す事態となりかねない。