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 地方自治体が過去に管理していたドメインが不適切なサイトで利用される事案が相次いでいる。多くは自治体が期間限定の事業やイベントで使った後に手放し、第三者がこれを再取得して行政とは無関係のサイトに転用しているケースだ。

 2020年9~11月に確認できた分だけでも、鳥取県や秋田県大館市、兵庫県神戸市、茨城県が使っていたドメインが中古ドメインを扱う事業者を通じて販売されていた。いずれも売買成立から間もなく不適切なサイトが開設されている。

秋田県大館市が手放したドメインはオークションで第三者が取得したにもかかわらず、市公式サイト(写真右)などのリンクは残ったままだった
秋田県大館市が手放したドメインはオークションで第三者が取得したにもかかわらず、市公式サイト(写真右)などのリンクは残ったままだった
(出所:GMOインターネット、大館市、秋田県博物館等連絡協議会)
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 子育て支援事業などに使っていた秋田県大館市のドメインは2020年12月10日時点でアダルトサイトとなっている。大館市によると子育て支援などのサイトは2020年3月に新ドメインに移行し、サイトを委託していた地場ITベンダーとの契約を解消した。今回の日経クロステックの取材依頼を受けて初めて事態を知り、契約を解消した委託先に確認したところ、2020年夏に委託先がドメインを手放したことが判明したという。

 結果として、新サイトへの移行から1年未満でドメインが第三者の手に渡り、リンクの変更など移行手続きも不十分だった。市の担当者は取材に対し「ドメインが第三者の手に渡って悪用され得ることを今回、初めて認識した」と回答した。

 鳥取県がふるさと納税関連で使っていたドメインや兵庫県神戸市が地域振興事業に使ったドメインは、現在は全く関係ない商品の広告宣伝や募集広告のサイトに転用されている状況だ。

 茨城県が県のPR活動に使っていたドメインも2020年11月時点で、第三者が取得したことが確認されている。12月10日までに、美容好きを名乗る個人が育毛剤のサイトを新たに開設した。

自治体管理ドメインを狙ううまみ

 使用期限が切れたドメインを、再登録が可能になるタイミングを狙って第三者が取得する手法は「ドロップキャッチ」と呼ばれる。ドメイン運用の啓蒙活動に携わっている日本ネットワークイネイブラー(JPNE)の石田慶樹社長によると、中央官庁や公益法人なども含めると使用を終えたドメインがドロップキャッチされる例は、2019年以降に限っても10例以上が確認されている。

 中央官庁では、文部科学省が「大学間連携共同教育推進事業」で使っていた旧ポータルサイトのドメインが2019年3月に第三者へ渡った。12月10日時点では閉鎖されているが、一時期はアダルトサイトに使われていた。2019年10月には大阪市が使っていた「大阪港開港150年記念事業」の特設サイトのドメインも第三者に渡り、一時期はアダルトサイトに使われた。大阪市が公式サイトで注意を喚起する事態に発展した。

 JPNEの石田社長は、公的機関が以前に管理していたドメインがドロップキャッチされ不適切に使われる例は、民間企業との比較では相対的に増加傾向にあると指摘する。ドメインを手放す問題点が民間企業の間で浸透する一方で、自治体などの間では十分に広がっていない。使用後のドメインを手放すリスクへの認識が不十分なため、使い捨て感覚でドメインを取得する事例が続いているという。

 公的な事業やイベントで使うドメインは自治体公式サイトなどにリンクが掲載され、利用者も比較的多い。SEO(検索エンジン最適化)の面でドメインの価値が高いことも、ドロップキャッチで狙われやすい傾向を強めている。