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 企業のシステム開発において、開発とリリースのサイクルを短期間で繰り返す「アジャイル開発」を採用する動きが広がっている。情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2021」によると、アジャイル開発を活用している日本企業は2割弱に達する。東京証券取引所などシステムに高い信頼性が求められる金融機関においても、アジャイル開発を本格適用するところが出始めた。

 アジャイル開発の利点は、開発の途中であっても、要件の変更・追加を柔軟にできる点にある。あらかじめ要件全体を固める「ウオーターフォール開発」と比べて、市場環境の変化に迅速に対応しやすい。東証の山森一頼IT開発部情報システム部長は「アジャイル開発の適用を検討する機会が増えている」と打ち明ける。

プロダクトオーナーが会議に出ない

 そんな中、改めて焦点が当たっているのが、アジャイル開発における偽装請負リスクの扱いだ。偽装請負とは、請負や準委任の契約を結んでいるにもかかわらず、実態として、発注者が受注者側の労働者に対して直接、具体的な指揮命令をしている場合を指す。偽装請負は労働者派遣法違反であり、受注者は1年以下の懲役、または100万円以下の罰金などに問われる恐れがある。発注者も当局による指導や勧告、公表・罰則の対象になる可能性がある。

偽装請負のリスクがある状況
偽装請負のリスクがある状況
(出所:情報処理推進機構の資料などを基に日経クロステック作成)
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 一般にアジャイル開発では発注者と受注者がチームを組み、担当者同士が密にコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進める。このため、ウオーターフォール開発と比べて偽装請負が疑われやすい。例えば開発チーム全員が利用するコミュニケーションツールを活用して連絡すると、発注者から労働者への業務遂行方法の指示として、偽装請負になり得るとの見方があった。

 NECの水野浩三ソフトウェアエンジニアリング本部エキスパートは「偽装請負が(企業がアジャイル開発に足踏みする)1つの要因になっているのではないか」と指摘する。偽装請負を恐れるあまり、プロダクトオーナーが必要な会議に出席しないなど「対策が過度になると、アジャイル開発の利点であるアジリティー(敏しょう性)や変化への対応力がそがれてしまう」(同)。