「聞いてよドラえも~ん、会社でミスして上司にしかられちゃってさ」「しょうがないなぁ、ちゃんと準備したの?」。作中に登場するのび太とドラえもんの会話ではない。早ければ2029年、あなた自身がドラえもんと話ができる通話サービスが登場するかもしれない。
ドラえもんのひみつ道具で言うなら「架空通話アダプター」だ。電話機にアダプターを取り付けると、本当は通じていないのに相手が出て話ができる道具である。実在の人物はもちろん、歴史上の人物、アニメや漫画のキャラクターとも話せる。
キーとなるテクノロジーは自然言語処理や音声認識といったAI(人工知能)技術と、質問に対する自動応答プログラムのチャットボット技術だ。ある人物の発言録や日常会話をテキストデータにして蓄積し、「この人物ならこう聞かれたらこう答えるだろう」といった受け答えの種類や語彙、言い回し、口癖などを解析する。特定の人格を想定した質問と回答を組み合わせたQAリストと、自動応答システムから成る対話エンジンを作る。用意する人格のバリエーションが多いほど、理想的な架空通話アダプターに近づく。
新宿2丁目のママも再現
萌芽となるサービスは既にある。対話AIの開発を手掛けるベンチャー、SELFの消費者向け対話アプリだ。AI技術を基に開発した「仮想人格チャットボット」がテキストデータによって利用者と対話を繰り返す。
独自デザインのロボットに美少女、イケメン男性。同社が用意した仮想人格チャットボットはどれも個性的だ。新宿2丁目のバーで働くママという設 定のチャットボットもある。
「今の仕事でなくても、別の仕事なら輝けるかもしれないじゃない」「自分探し?どうせまだ見つかってないんでしょう」。愚痴を聞く、恋愛や仕事の悩み相談に乗る、過去の経験話や面白い雑談を披露する―― 。受け答えは本物のバーのママさながらだ。
ワンパターンの応答を繰り返すだけではない。利用者が入力した選択肢やキーワードに基づいて会話のパターンを変える。過去の会話を記憶し「そういえばダイエットしたいと言ってたけどどうなった?」などと思い出して語りかける。こうしたパーソナライズ機能によって「利用者の意図や心情に寄り添った、極めてプライベートな対話ができる」(SELFの生見臣司社長)。