全4167文字
PR

「少し先の未来」なら行ける

 最も実現が困難なのはタイムマシンかもしれない。過去や未来に行ける乗り物だ。任意の時間や場所を指定して移動できるが、「超空間」と呼ぶ架空の空間を通って移動するため、全く同じ乗り物を開発するのは難しい。

©藤子プロ・小学館
©藤子プロ・小学館
[画像のクリックで拡大表示]

 だが今の技術でも「少し先の未来」になら行ける。速く動く乗り物に乗り続ければいいのだ。「新幹線に60年間乗り続けると、10万分の5秒だけだが未来に行ける」。立教大学理学部の原田知広教授はこう話す。

 物理学に基づけば「高速で移動する乗り物の中は、静止しているところよりも時間の進みが遅い」(原田教授)。時速約300キロメートルで動く新幹線内で60年経過したとき、地球上の静止している場所では60年と10万分の5秒が経過しているのだ。

 「仮に光の99.99%の速さで進むロケットを作れたら、その中で1年経過する間に、地球上では70年経過している」(原田教授)。もちろん現段階では夢物語の域を出ないが、いつかそうしたロケットが登場すると信じたい。

 一方、過去に行く方法は現時点で存在しない。ただし、理論上は「これができれば過去に行けるかもしれない」というアイデアがある。2017年にノーベル物理学賞を受賞した理論物理学者のキップ・ソーン氏が提唱した「ワームホール」という仮説だ。ワームホールは宇宙の2地点間を結ぶトンネル型の構造のこと。これが存在し、かつトンネルの片方の口を光に近い速さで動かせると、過去の時間に行けるという。

 ただし、ワームホールが観測された例はない。加えてワームホールをつくるには負のエネルギーを持つ物質が必要になるが、その存在を確かめる方法は見つかっていない。

 タイムマシンそのものの再現は難しくとも、一部を再現しようという取り組みがある。例えば資生堂が2019年4月に開設した研究拠点に設置した「Beyond Time」という装置がそうだ。

 Beyond Timeは向かい合った2つのブースで構成され、夫婦や親子、カップル、友人同士で入室。ブースにはカメラ付きのディスプレーが設置されており、互いの顔を見ながら会話をする。ディスプレーに投影する顔だけ、過去と未来に行き来できる。現時点で過去の顔を再現できるのは15年前まで。若いころの顔や年を取ったときの顔をシミュレーションするのだ。

資生堂が開発した「Beyond Time」 資生堂が開発した過去や未来の顔をリアルタイムに再現して表示する装置「Beyond Time」
資生堂が開発した「Beyond Time」 資生堂が開発した過去や未来の顔をリアルタイムに再現して表示する装置「Beyond Time」
[画像のクリックで拡大表示]

 開発を主導した資生堂の鐘ヶ江哲郎クリエイティブ本部エグゼクティブクリエイティブディレクターは「過去や未来の顔をした相手と会話すると、忘れていた記憶を呼び起こせたり、将来どういう気持ちになるかを実感したりできる」と話す。

 資生堂は以前から加齢による容貌変化を研究してきた。この研究成果と顔認識技術を組み合わせてBeyond Timeを完成させた。顔認識で分析した顔の動画を基に、年齢による目や口などの位置の変化、しわやしみなど肌の変化をリアルタイムに再現する。

 30歳前後の友人同士が高校時代の姿で語らうと、思いもかけないエピソードがよみがえるかもしれない。新婚カップルが10年後の互いの姿を見比べ合って、将来に向けた話に花を咲かせることもできそうだ。