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子供のころに誰もが憧れたドラえもんの「ひみつ道具」は、いつの日に、どんな形で現実になるのか。日経コンピュータの創刊1000号を記念して大胆予測する特集の最終回は、最難関とも言える3大道具を取り上げる。タケコプター、タイムマシン、どこでもドアだ。シンギュラリティー後の時代は、これらが「3種の神器」になっているかもしれない。

 ドラえもんのひみつ道具の中でも特に魅力的で、多くの人が実現を願うのが「タケコプター」「タイムマシン」「どこでもドア」の3つだろう。作中の至るところで登場し、誰もが知るいわば3大道具となっている。

 3つの道具には夢が詰まっている。それだけに実現はかなり困難だ。架空の物理学やエネルギーなどが使われており、現代の科学技術では到底解明や再現ができない。

 それでも近いコンセプトを持ち、あたかもこれらの道具を使っているような感覚になれる技術の実現なら可能かもしれない。

「空を自由に飛ぶ」技術が続々

 ドラえもんのひみつ道具の中で登場回数が多いのがタケコプターだ。竹とんぼのような形状で、頭に取り付けて回転させると自由に空を飛べる。

©藤子プロ・小学館
©藤子プロ・小学館
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 小さなプロペラだけで空を飛んでいるように見えるタケコプターだが、実は「反重力」と思われるエネルギーを使っている。反重力は物質や物体に加わる重力を無効化・調節できる力だ。タケコプターを頭に取り付けると、重力に逆らって体重を軽くする。小さなプロペラでも体を浮かせられるのは反重力のおかげだ。反重力は実在しないものなので、タケコプターと「全く」同じ装置は実用化できない。

 一方、少し視点を変えて「気軽に空を飛べる1人乗りの乗り物」とタケコプターを定義すると状況は変わってくる。このコンセプトなら10年以上先には実用化している可能性がある。

 有名な例がフランス人の発明家、フランキー・ザパタ氏が開発した「Flyboard(フライボード)」だ。Flyboardはジェットエンジンを搭載したスケートボードほどの飛行装置。人間が立って乗ると1人で空を飛べる。2019年8月には時速140キロメートルで22分間飛行し、英仏間のドーバー海峡を横断した。

 Flyboardは自由に空を飛べるがジェットエンジンや燃料の扱いは一般ユーザーには簡単ではない。子供を含む多くの人たちが気軽に利用するにはさらなる改良が必要になりそうだ。

 手軽さや安全性を考えると、電動式の飛行装置が期待される。例えば産業用無人ヘリコプターなどの開発を手掛けるヒロボーは今から7年前に電動式の1人乗りヘリコプター「bit(ビット)」を開発して話題になった。

ヒロボーが開発した電動式の1人乗りヘリコプター「bit」。「タケコプター」のように使える
ヒロボーが開発した電動式の1人乗りヘリコプター「bit」。「タケコプター」のように使える
(写真提供:ヒロボー)
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 ヒロボーの小林隆博モデル事業部長は「我々が開発している無人の産業用ヘリコプターと同じ機構を使って、人が乗れるようにした」と話す。

 現在の航空工学や物理学から見ると「1人で空を飛ぶ」という技術はほぼ完成している。だがタケコプターのように自由に空を飛ぶには、まだ2つの課題が残る。

 1つは飛行時間だ。最大積載重量が約80キログラムのbitの場合、1回の充電で飛行できる時間は30分以下と短い。「実用化には小型で軽量、大容量の電池が必要」と小林事業部長は説明する。電池の小型化・大容量化は研究が活発だ。例えばソフトバンクと物質・材料研究機構(NIMS)は2025年にも「リチウム空気電池」の実用化を目指している。リチウム空気電池は従来のリチウムイオン電池の5倍のエネルギー密度がある。これが実現すれば、従来の電池サイズで5倍大きい電力供給が可能となる。

 もう1つの課題は法整備だ。「今はbitを飛ばしてもよいかどうかを判断できる機関すらない。許可を得られないので日本国内で使うのは事実上不可能だ」(小林事業部長)。法整備が追いつかず、ヒロボーは2012年にbitを試作した後に開発を中断している。

 法整備については米ウーバーテクノロジーズなどが開発を進める「空飛ぶクルマ」が突破口になりそうだ。ウーバーは電動の垂直離着陸(eVTOL)機や離着陸場の整備を含め、空のライドシェアサービス「Uber Air」を4年後の2023年に開始する計画だ。

 空飛ぶクルマによって米国の法整備が進めば、後押しされて日本国内の法整備も進む可能性はある。タケコプターが登場する『ドラえもん』を生んだ国として、日本は積極的な法整備を進めていきたいところだ。