建築設計という知的生産行為の支援に、人工知能(AI)が一役買いそうだ。単純作業の効率化に、深層学習(ディープラーニング)などの最新技術が威力を発揮しつつある。AIで作業を高速化し、浮いた時間をクリエーティブな仕事に振り向ければ、設計はさらに深化するはずだ。
大成建設
AIが風環境を予測
大成建設は風環境を瞬時に予測するAIを開発した。建物形状データを入力するだけで、風速や風向きをはじき出す。設計の初期段階から風環境に配慮した建物配置・形状を手軽に検討できる〔図1、2〕。
過去に同社が手掛けた市街地5km2分の数値シミュレーション結果から生成した約3200万枚の画像を教師データに、ディープラーニングを実施した。学習を済ませたAIに、設計中の建物とその周辺の市街地の形状を入力すると、歩行者への影響を評価するのに必要な地上1.5mでの予測結果を出力する。範囲を限定し、予測時間を短縮した。
同社技術センター都市基盤技術研究部の中村良平副主任研究員は、「予測時間は入力も含めて数分。計画建物付近では精度の高い結果が得られた」と自信を見せる。
一般に、環境影響評価(環境アセスメント)などの一環で実施する風洞実験には約2カ月、数値シミュレーションには1~2週間程度の期間を要する。
せっかく時間をかけて建物を設計しても、風洞実験の段階になって強いビル風が発生すると分かれば、大幅な設計変更や実験のやり直しを余儀なくされる場合がある。
同社技術センター都市基盤技術研究部の吉川優チームリーダーは、「風洞実験には1000万円ほどの費用がかかるケースもある。設計変更をすると工程にも大幅な遅れが生じる」と説明する。
AIの活用によって、こうした手戻りのリスクを減らせる可能性がある。同社は今後、AIのモデルに改良を加えて予測精度の向上を図り、社内で設計支援ツールとして活用する考えだ。20年度以降の運用開始を目指す。