深刻な人手不足を背景に、建設会社などが人工知能(AI)の開発を進めている。重機の自動化から施工管理の効率化まで、用途は様々だ。人海戦術でこなしていた作業を自律重機やロボットに任せれば、現場の生産性が飛躍的に向上する可能性がある。
フジタ、DeepX
AIが重機を操る
フジタは東京大学発のAIベンチャーであるDeepX(ディープエックス)(東京・文京)と、深層学習(ディープラーニング、「AIのキホン ディープラーニングって何?」を参照)による油圧ショベルの自動化に挑んでいる〔写真1〕。
開発を始めてから約2年。AIを搭載した無人の油圧ショベルは、機体前方の地面を掘削するというごく単純な動作ならできるようになった。
開発を担当するフジタ機械部の川上勝彦上級主席コンサルタントは、「最後の仕上げなど、精密な作業までは求めていない。AIが作業の8割方をこなしてくれるだけでも、かなりの効率化につながる」と話す。
重機の「頭脳」に当たるのが、(1)運転席に取り付けた広角カメラの画像から機体の状態を推定するAI、(2)推定した状態を基に次の動きを決め、運転席に装着した遠隔操縦装置に操作信号を送るAIだ〔図1〕。
機体の状態を推定するAIには、油圧ショベルのブームやアーム、バケットを撮影した広角カメラの画像と、その時の各関節の角度をセットにした数十万もの教師データを与えて、データの特徴を学ばせた。

学習を済ませたAIに広角カメラの画像を入力すると、関節の角度を瞬時にはじき出す。高価なセンサーを使用しなくても、カメラさえ取り付ければ事足りる手軽さが売りだ。DeepXの冨山翔司エンジニアは、「教師データに用いた関節の角度は、機体を真横から撮影した画像を基に人手で作成した」と語る〔写真2〕。
一方、機体を制御するAIには、シミュレーター上の「強化学習」で鍛錬を積ませた。強化学習とは、コンピューターが取った行動の結果に応じて報酬(得点)を与え、より高得点を得る方法を学ばせる手法だ。
土をたくさん掘れば高得点を得られるようにすると、コンピューターは数百万回と試行錯誤しながら、効率的な掘り方を習得していく。こうして作ったAIで実際に重機を動かしてみては、改善を重ねている。
フジタの川上上級主席コンサルタントは、「まるで子どもを育てるように、皆で『がんばれ』と言いながら油圧ショベルを見守っている。過去に経験したことがない不思議な技術開発だ」と笑みをこぼす。
同社技術センター先端システム開発部の伏見光主任研究員は、「今後は単純な掘削作業だけでなく、指定したエリアを一定の深さまで掘り下げたり、土砂をダンプに積み込んだりできるようにしたい」と意気込む。
クレーンの自動化も
重機の自動化に取り組む企業はフジタ以外にもある。例えば鹿島はコマツや理化学研究所と共同で、ブルドーザーやダンプトラックといった重機が協調して作業する「A4CSEL(クワッドアクセル)」と呼ぶシステムを開発している。各社は土木工事をメインターゲットに開発を進めているが、今後は建築工事の主役を張るクレーンの自動化が進みそうだ。
コベルコ建機と豊橋技術科学大学は19年4月、同大学に共同研究講座を設けてクレーンの自動化に取り組むと発表した。つり荷を揺らさず、効率的に揚重できるようにする。クレーンは、つり荷を受け取る職人との連携が重要だ。人の存在を認識し、ぶつからないように、しかも受け取りやすい位置に荷を運べるよう、機械を制御する必要がある。
システム工学を専門とする同大学の内山直樹教授は、「まずはオペレーターの支援技術を開発し、将来は自動運転化を目指す。画像処理や機械の制御にAIを活用する」と話す。