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 建設AIの活用は、建築防災の分野でも始まっている。災害が発生する非常時には、人手不足がより深刻になる。この問題の解消へ、期待されているのがAIによる支援だ。災害発生時の被害把握を支援するツールとしての活用事例を紹介する。

 清水建設 
AIで火災報知機より早く火種を発見

 清水建設が開発中のAI(人工知能)による「早期火災検知システム」が実装段階に入った〔写真1〕。

〔写真1〕自社開発の物流施設で公開実験
〔写真1〕自社開発の物流施設で公開実験
S.LOGi新座Westの柱スパンは11m、梁下の有効高さは5.5~6.5mで、実験に使用したのは壁に囲まれた4スパン×3スパンの大空間だ。この中央付近に火種を置いた(写真:日経アーキテクチュア)
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 ガスセンサーやレーザーセンサー、炎センサーなどのIoT(モノのインターネット)センサーから得た情報を基に、AIが高い精度で火災発生を知らせる。自動火災報知設備と併せて導入し、火災リスクを減らす。2019年8月22日、同社の物流施設「S.LOGi新座West」で実験を公開した。

 公開実験では、重ねた段ボールの間にハンダごてを挟んで加熱した。段ボールやビニールが燃えた際に生じる化学物質を検知する独自のガスセンサーは計32台。天井に設置した他、人の顔の高さに三脚で固定した。電源は電池で無線通信を採用したため、設置箇所の自由度が高い。さらにレーザーセンサー1台で煙の形を計測した〔写真2〕。

〔写真2〕センサーの情報をAIが判定
〔写真2〕センサーの情報をAIが判定
監視画面の様子。赤丸で囲んだセンサーが異常を検知し、「火災警報」を発した。段ボールが燃えて発生した煙が風で赤い矢印の方向に流され、ガスを検知したセンサーのアイコンが「火災注意」を示す黄色い表示になった(写真:日経アーキテクチュア)
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わずか4分で火種を検知

 段ボールの加熱開始から約4分後、三脚で固定したガスセンサーが最初に反応した。続いて、煙が流れた方向の天井に設置していたガスセンサーもガスを検知し始めた。周囲には煙と嫌な臭いが漂っていたが、この時点で自動火災報知設備は発報しなかった。

 物流施設では段ボールなどの可燃物が高密度で積載されている上に、大面積・高天井となっているため火災が大きくなりやすい。

 煙が天井の煙感知器までなかなか上がっていかず、発報が遅れることがある。誤報を減らすためにほこりに強い感知器を使っていることも一因だ。そこで清水建設は、物流施設内で最も多い燃えぐさである段ボールとビニールに着目。これらが燃える際に最初に発生する化学物質を検知するガスセンサーを開発した。

 システムに搭載するAIの学習は、誤報を減らすことに重点を置いている。4カ月ほどで、火災実験を基に作ったデータ約5000件を学習させた。施設の運用開始後は、平常時のデータを学習することでさらに精度が上がる見込みだ。