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事例5:局所戦に挑むカシオ計算機

 個人ではなくて、特定業界に最適化したものもある。カシオ計算機(カシオ)は2019年5月に20万円のコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)「DZ-D100」を発売した。これは皮膚科医向けに特化したコンデジであり、皮膚科医の診療の支援にとことんこだわっている6)

 皮膚科医は皮膚の病変部をカメラで撮影するが、その際には接写に特化した専用レンズを用いることが一般的。一方、患部の周辺を撮影する際には、そのレンズを取り換えたり、別のカメラと使い分けたりしていた。専用のレンズを外付けすると総重量が1キログラムを超えることもあり、取り回しに難儀していた。

 それに対し、DZ-D100は接写も患部周辺撮影のいずれにも対応しつつ、重さを約400グラムに抑えているため取り回しが容易だ。さらに、光の反射を抑え病変部をはっきり撮影することや、病変部のサイズを計測する機能も備えている。

図3:1台で接写と通常の撮影が可能(写真:カシオ計算機)
図3:1台で接写と通常の撮影が可能(写真:カシオ計算機)
出典は、「カシオが皮膚科向けカメラ発売、1台で接写と全体撮影」、近藤寿成、日経 xTECH(2019年5月)。情報収集サービス「日経TechFind」にて「DZ-D100」で調査して得た結果の一部。
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 筐体(きょうたい)デザインにも工夫がある7)。普通のカメラは左手に乗せ、右手で把持しつつシャッターを押す。一方、皮膚科医の診療を観察すると、病変部を上からのぞき込むように撮影することが多く、左手で把持した上で、液晶画面をタップして撮影することが多い。DZ-D100はそのような使い方になじむデザインにされた。

 さらにこのようなカメラの活用が広がることによる「AI診断時代」への期待も聞かれる。AI診断に利⽤する画像は多ければ多いほどよいが、撮影条件がそろった画像のほうが圧倒的に利⽤しやすくなるためだ。カシオによるインタビューに答えた東京女子医科大学の田中勝医師は、「皮膚は目で見られるので経過観察がしやすく、AIの研究に向いています」「理屈の上では世界中の医者が全員同じカメラに統⼀して画像を撮影することが、⼀番効率がよい」と語る8)

 「使い勝手の良い標準的なデータ収集ツール」を提供できるようになれば、その先には画像解析支援などのフロンティアも広がっている。横の広がりは減っても、深掘りの中で事業拡大することにもつながるだろう。

安くなったデジタル技術で顧客の価値を高める

 以上、モノの提供に関するパーソナライズとして5つの事例を紹介した。大量生産品の不足を補うイケア。それぞれの顧客の肌事情に合わせて、感動に至るような製品を提供するポーラ。必要なときに必要な分だけを変動費として提供するプロ用ビデオカメラ。最大の難関であった習熟の困難さを解決する筋電義手。皮膚科医の業務に特化し、局所戦で勝とうとするカシオ。

 これらが実現された背景には、ビッグデータ、IoT、人工知能の存在がある。安くなったデジタル技術の活用は、今までとは違う戦い方で顧客に対する価値をより大きくできる。そんな可能性を感じないだろうか。

1)"Artwork Personalization at Netflix", Ashok Chandrashekar他, Netflix Technology Blog, https://medium.com/netflix-techblog/artwork-personalization-c589f074ad76(2017年12月)
2)ThisAblesのウェブサイト、https://thisables.com/en/
3)APEXに関するポーラのウェブサイト、https://www.pola.co.jp/brand/apex/(2019年9月閲覧)
4)「ブランド誕生から30年の節目を迎えるアペックスブランドが大きく進化」、月刊C&T(2019年7月)
5)「切断した手の動き、「筋電義手」で再現」、伊藤瑳恵、日経デジタルヘルス(2019年3月)
6)「患部の接写と通常の撮影が1台で可能な皮膚科医向けカメラ」、カシオ計算機プレスリリース(2019年4月)
7)「カメラ技術健在!!カシオが開発した最新カメラは医療用?『ダーモカメラ』開発秘話」、諸⼭泰三、マイナビニュース(2019年7月)
8)「カシオのダーモカメラが皮膚科の医療現場を変える」、諸⼭泰三、マイナビニュース(2019年8月)