全4492文字
PR

 テクノロジーが進展すれば、疾病や老化など様々な事情で低下した人間の機能をテクノロジーで補いやすくなる。今回は、センシングや解析のコストが安くなったことを生かして機能補完を進めている事例を見ていく。

着るAEDで心臓機能を補完する

 人間には機械と違ってUSBケーブルの差し込み口もなければ、通信機能も内蔵されていない。そのため、人間の振る舞いを変えようとすれば、スマホなど端末を介して指示を出す必要がある。スマホを介した指示というと、すでに目や耳に対する情報提示があるが、もっと直接的に人間に働きかけるやり方もある。旭化成ゾールメディカルが提供する「LifeVest」はその一例である(図1)。LifeVestは、心臓が止まりそうになると外部から電気ショックを与える「着るAED」だ 1)

図1 着用型自動除細動器「LifeVest」
図1 着用型自動除細動器「LifeVest」
出典は、伊藤瑳恵、「旭化成が買収した、あの米医療機器メーカーは今…」、日経デジタルヘルス(2016年11月)。情報収集サービス「日経TechFind」にて調査して得た結果の一部。
[画像のクリックで拡大表示]

 世の中には心臓の異常が発生しやすい人がいる。例えば、一度、心筋梗塞を起こしたことがある人は、その後数カ月の間に再び異常に見舞われる可能性が極めて高い。LifeVestはそのような差し迫った危険を持つ人が用いるための医療機器だ。患者は、入浴のとき以外は常に着用することが求められる。

 LifeVestは常に心臓の動きに関するデータを収集している。そして、そのデータから心臓の異常情報を検知すると音による警告が発せられる。警告音が鳴り始めて数十秒経過しても解除ボタンが押されないと、ベストと皮膚の間にジェルが放出される。電気ショックを伝えやすくするためのジェルだ。ジェルの放出が完了すると、AEDと同じように心臓の機能を正常に戻すための電気ショックが自動的に実施される。

 日本でのサービス提供開始は2014年とまだ日が浅いが、2001年の販売以降、米国やドイツを中心にすでに10万人以上が利用し、2000人以上の命が救われている2)。急性心筋梗塞になった人の100人に1人は、その後1カ月の間に電気ショックが施されるような不整脈の症状が見られたという。なお、常にデータが収集されているため、電気ショックによる治療には至らなかったような小さな異常についても記録されている。データは「LifeVest Network」というWebサービスを介して、医師と共有されている。

 LifeVestはいささか極端な事例かもしれないが、命の危険が差し迫っており、危険の兆候を高い精度で予測できる状況においては、ここまで行っているという事例として紹介した。事業自体も好調で年率15%程度で成長しているという3)