新規事業の開発。コロナ禍で業績が低迷する中で、皆さんは新規事業についてどのように考えているだろうか。
人の移動状況を見てみると、緊急事態宣言下の時点よりもかなり戻ってきている。週末の人出、朝夕の通勤電車の混雑具合、夜の飲食店における人の入り具合などから、人出が戻ってきていることは、多くの人が感じ取っているだろう。実際、NTTドコモの空間統計情報から、駅前を通過する人口の推移を見ると、9月にはコロナ前のおよそ2割減の水準になっているところが多い。
これがそのまま経済状況を示す指標になるわけではないが、活動量が8割になっているのなら、消費も8割という見方ができそうだ。当然、多くの企業は業績回復を迫られる。
とはいえ、新型コロナウイルスのまん延は、人々の価値観そのものを変えてしまった。従来どおりの製品、価値観では、いくら資金や人員を投じても焼け石に水、ということになりかねない。そこで重要性を増すのが、新しい市場、顧客の開拓、あるいは新規事業の開発だ。
では、新規事業を開発する際、何を起点にすればよいか。一つの方法は技術トレンドをつかみ、そこから発想を広げていくことだ。こうした考えから日経BPでは、「2025年までに社会やビジネスにインパクトを与えるテクノロジー」の調査を企画し、このほどその結果を発表した。なお本調査では、医療・健康、次世代ロボット、スマート社会、次世代石油化学などの多方面にわたる技術を整理したうえで、それぞれの新技術がもたらす影響度/インパクトを調査・分析した(インパクトの分析では、企業と専門家とのマッチングサービスを手掛けるビザスクの協力を得た)。今回は、これらの一部を紹介することで、未来の社会とビジネスの芽を紹介しよう。
遺伝子治療の技術で農業・漁業が進化
医療・健康の分野は、注目を集める技術が特に多い。その1つに「ゲノム編集」がある。ゲノム編集の新手法「クリスパー・キャス9(CRISPR/Cas9)」を開発した研究者が、2020年のノーベル化学賞を受賞したことでも話題になった。
ゲノム編集の応用先として期待されているのが高度医療だ。特に、今は根治する可能性がない遺伝病に対し、治療の可能性を開く技術として注視されている。ゲノム編集によって、遺伝病の原因となる異常遺伝子を直接修復できるようになるかもしれないからだ。
有効な治療法が存在しない遺伝病には、例えば、早老症と呼ばれる遺伝性疾患がある。全身にわたり老化が急速に進行してしまう難病である。特に症状が重篤なプロジェリア症候群の場合、平均寿命はわずか13歳だ。こうした難病から人類を救うポテンシャルが、ゲノム編集にはある。
実は、ゲノム編集のインパクトはこれだけにとどまらない。病だけでなく、飢餓や食糧危機からも人類を救う可能性がある。例えばゲノム編集を植物に応用することで、作物の耐性を高められる。作物自身の遺伝子を切断・改変することで実現する。現在もゲノム編集による、より精度の高い育種技術の開発への研究が進んでいる。
また、植物だけでなく動物への応用も期待されている。その代表例が「次世代型魚類育種」の技術研究である。従来の養殖魚の育種では、世代時間が長く、また広い飼育空間が必要なため、高コストになってしまう課題があった。ゲノム編集を活用することで、代理親となる魚の成熟を早め、世代時間を大幅に短縮できる可能性がある。
こうした農業・漁業の進化がものになれば、世界の食糧供給が安定し、食糧不安のない未来がやってくるだろう。このように、ゲノム編集は医療・健康分野だけでなく農業や漁業といった第1次産業にも大きなインパクトを与え、新たなビジネスチャンスをもたらす潜在力がある。