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「2050年にCO2排出実質ゼロ」を目指し、世界中が動いている。ガソリン車の新規販売禁止に象徴されるエネルギー関連をはじめ、CO2の排出抑制、回収、再利用と考えていくと、影響範囲は想像以上に広い。その中にあってエレクトロニクス業界にはどのような影響が及ぶのか。企業と知見のあるエキスパート(専門家)とのマッチングサービスを手掛けるビザスクの協力を得て、業界に長く籍を置く技術者や経営者20人に「カーボンニュートラル効果」を尋ねたところ、おおむね、今後5年での売り上げ拡大を見込む。中でも注目度が高いのが水素燃料をはじめとする「CO2を排出しない代替技術」である。ただ、エレクトロニクス業界にとってのチャンスは、それだけにとどまらない。例えば「培養肉」など、一見すると縁遠い領域にもエレクトロニクスが貢献できると見る専門家もいた。

 脱炭素の動きは止まらない。温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」から一時は離脱した米国も一転。バイデン政権は発足初日の2021年1月20日に協定への復帰を国連へ通知。30日後の2月19日に、正式に復帰した。バイデン大統領は「2050年までの温暖化ガス排出実質ゼロ」を表明している。

 「2050年カーボンニュートラル」は、2020年12月時点で123カ国・1地域がコミットしている。日本もその中の1つだ。菅義偉首相は2020年10月26日、「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。EU(欧州連合)も「2050年カーボンニュートラル」を掲げている。

 これらの国における世界全体のCO2排出量に占める割合は23.2%である(2017年実績)。これに米国が加わると、世界全体のCO2排出量に占める割合は37.7%に達することになる。中国も「2050年」ではないものの、脱炭素にかじを切った。習近平主席は2020年の国連総会で、「2060年カーボンニュートラル」を表明した。

 脱炭素の取り組みとして象徴的なのが、ガソリン車の新規販売禁止の動きである。例えば英国がガソリン車とディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止すると発表し、中国が2035年をめどに販売する新車のすべてを環境対応車にする方針を打ち出すなど、国・行政の発言が目立つ。

 これを支えるのがエネルギー関連の技術である。その技術は幅広い。Liイオン2次電池や全固体電池のような電池技術ばかりでなく、水素燃料や合成液体燃料(PTL燃料)のような燃料技術もある。さらに、自動車の低炭素化と考えれば、車両の軽量化技術も貢献する。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)のような新素材、そうした新素材と金属の接合技術がそれだ。

 ガソリン車の新規販売禁止のようなCO2の排出抑制だけにとどまらず、CO2の回収や再利用を考えていくと、もっと多くの技術が関わってくる。「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」と呼ばれる直接CO2を空気中から回収する技術、DACを含めて回収したCO2を貯蔵する「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」、廃棄物を溶かしてCO2を発生させずに材料として再利用する技術、CO2そのものを添加剤などの用途で使う技術などが注目されている。なお、これらの貯蔵から再利用までの技術は、併せて「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」と呼ばれることもある。

脱炭素は「売り上げ拡大のチャンス」

 脱炭素の動きが加速し、様々な取り組みが進む中で、エレクトロニクス業界にはどのような影響が及ぶのか。企業と有識者とのマッチングサービスを手掛けるビザスクの協力を得て、業界に長く籍を置く技術者や経営者20人に「カーボンニュートラル効果」を尋ねた。業界エキスパートはおおむね、今後5年での売り上げ拡大を見込んでいる。

*ビザスクのデータベースに登録されたアドバイザーに対するアンケート調査を可能にする「エキスパートサーベイ」を利用した。

 「脱炭素に向けた取り組みが活発化するとした場合に、ご所属の業界の売り上げ拡大として、どの程度の影響があると思われますか」という問いに対して、「業界の売り上げをこれから5年で増加させる可能性がある」とした回答は全体の90%に達する(図1)。

図1 質問1「脱炭素に向けた取り組みが活発化するとした場合に、ご所属の業界の売り上げ拡大として、どの程度の影響があると思われますか」への回答。単一選択で回答してもらった(出所:ビザスク)
図1 質問1「脱炭素に向けた取り組みが活発化するとした場合に、ご所属の業界の売り上げ拡大として、どの程度の影響があると思われますか」への回答。単一選択で回答してもらった(出所:ビザスク)
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 中でも注目度が高いのが水素燃料をはじめとする「CO2を排出しない代替技術」である(図2)。今回、脱炭素の取り組みを、(1)CO2の回収、(2)CO2の除去、(3)CO2の貯留、(4)CO2の再利用、(5)CO2由来製品の流通、(6)プラント運営、(7)装置や部材の提供、(8)CO2を排出しない代替技術の提供の8つに分けて、成長の可能性を感じられるビジネスを、業界のエキスパート(専門家)に選んでもらった。結果は、(8)CO2を排出しない代替技術が抜きんでた(図2)。

図2 質問2「以下の中で、これまでのご経験より{最も/二番目に/三番目に}成長の可能性を感じられるビジネスを1つお選びください」への回答(出所:ビザスク)
図2 質問2「以下の中で、これまでのご経験より{最も/二番目に/三番目に}成長の可能性を感じられるビジネスを1つお選びください」への回答(出所:ビザスク)
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 事業性を尋ねる質問においても、市場ニーズ、参加できる業種の裾野(すその)、他産業・サービス等への波及効果、付随して展開できる商品、実現性の5項目で、CO2を排出しない代替技術の提供ビジネスが平均値を上回った。全6項目の中で唯一、参入の難易度については平均値を下回った(図3)。これは、競合の参入が相次ぎ、競争が激しくなる可能性があるということだが、見方を変えれば様々な企業に参入のチャンスがあるということにほかならない。

図3 事業性に対する4段階評価。特徴的な結果となった(2)CO2の除去、(6)プラント運営、(8)CO2を排出しない代替技術の3つと、総計(平均値)を抽出して示した。(8)は6項目中5項目で平均値を上回った。(6)は参入難易度と実現性の評価が高かったが、波及効果や付随して展開できる商品についての評価は平均を下回った(出所:ビザスク)
図3 事業性に対する4段階評価。特徴的な結果となった(2)CO2の除去、(6)プラント運営、(8)CO2を排出しない代替技術の3つと、総計(平均値)を抽出して示した。(8)は6項目中5項目で平均値を上回った。(6)は参入難易度と実現性の評価が高かったが、波及効果や付随して展開できる商品についての評価は平均を下回った(出所:ビザスク)
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 脱炭素で伸びる事業については、水素燃料や風力/太陽光による発電、電気をためる蓄電など、CO2を排出しない代替エネルギーの分野を挙げる専門家が多かった。この他、廃熱利用につながる熱電変換技術や、電磁波による発電など、エネルギーハーベスティング(環境発電)技術、エネルギー効率を高めたり、CO2排出量を把握したりするためのセンシング技術を挙げる回答も多く見られた。