より良いビジネスチャンスを見つける上で重要なことは何か。まず、有望だと思う事業領域のカオスマップを作成し、自社の参入可能性や参入シナリオを考えることが重要だ。カオスマップとは、特定のテーマに対して、細分化した事業領域と、各事業領域で活動する企業を地図のように配置したものである。
カオスマップは、業界における自社の立ち位置を明確にしたり、新規参入を検討している分野の既存企業のポジションを分かりやすく示したりする上で大変有効である。しかし、ただ事業区分と企業ロゴが並んでいるだけのカオスマップでは不十分である。各企業の事業内容や施策の違いまで把握することが実務上は重要になる。本記事を通して、新規事業企画に生かせる実務的なカオスマップを作ることで事業シナリオの確度が上がり、成功に近づくことを一緒に体験してほしい。
新規事業をどの領域で考えるか、それが第一歩
本コラムに以前執筆した記事で、筆者はCO2(二酸化炭素)の循環活用ビジネスのカオスマップを作成した(図1)。その中に水素の活用が入っていた。そこで今回は、水素でさらにどのような事業が展開できるかを深掘りしていく。水素ビジネスの全体像を把握するために、当社のツール「Astrategy(エーストラテジー)」で新たに水素ビジネスのカオスマップを作成し、全体を見渡す。
水素ビジネスの全体を俯瞰(ふかん)する
水素ビジネスの主要なプレーヤーの動きを確認しているのが図2および動画1である。
一見するとカオスマップには見えないが、これが実務的なカオスマップとなる。横軸に「水素」で検索したときに登場する企業名が並んでおり、縦軸にはWeb上の記事を人工知能(AI)によって分類したテーマが並んでいる(2020年12月10日~2021年6月10日のWeb上に存在する水素関連記事の約5000件を対象に分類)。1つのビジュアルとして表現する場合は、図1のCO2循環活用カオスマップのような表現が優れている。しかし、実務的に各社の事例を比較する上では、カオスマップ後も定期的に記事情報を更新でき、新たなテーマの登場や参入企業が分かりやすい図2の形式が優れている。
既知の情報と未知の情報を整理し、何を調べるか決める
まず事業領域の切り口を探すために、水素ビジネスの全体感をまとめていくと、図2より製造・供給・利用という3つの領域における水素を活用した事例が多く出てきていることが分かる。これらの領域全てで160兆円規模に拡大するとの予測もある。
水素供給のプレーヤー数は、水素製造と供給(水素輸送船の運用など)を担っている川崎重工業や岩谷産業のようなプレーヤーもいるため、図では少なく見えてしまうが多くの企業が参画している。
次に、3つの領域別の動向を見ていく(動画1)。すると、水素関連プレーヤーの提携・協業・投資・買収などの企業活動や水素の製法によって色分けされた水素分類別の各社の注力分野を捉えることができる。加えて、再生可能エネルギー由来の電力でアンモニアや水素の製造を目指しているJERA(東京・中央)や、アンモニアを水素に分解するシステムを持つ米Starfire Energy(スターファイアエナジー)に出資した三菱重工業がアンモニアのテーマで話題を集めていることが分かる。そして、そのインフラを支える供給網、保管・貯蔵方法についても川崎重工業の液化水素運搬船、住友商事の世界初の水素サプライチェーン構築など各社のポジションが見える。最後に、利用領域だが、モビリティー分野は、トヨタ自動車の水素エンジンをはじめ、他にも二輪車、船舶、電車、トラクターなどあらゆる分野での水素利用が実証実験中となっている。CO2排出の多い製鉄業では、石炭の代わりに水素を活用することでCO2を出さない水素還元製鉄法の研究が進んでいる。しかし、水素の供給や利用のビジネスは、先に述べた水素の製造部分が確立しないとそもそも始まらない。そこで、本記事ではさらに水素製造の事業領域に絞ってカオスマップを見ていく。
動画1 水素ビジネスのカオスマップ
(出所:ストックマーク)