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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大により、テレワーク(在宅勤務)を導入する企業が増えている。政府による「出勤者数の7割削減」の協力要請も続いている。テレワークによって、満員電車で通勤する必要がなくなり、時間を有効に使えるようになったと感じている人は多いだろう。その一方で、同僚や上司、部下、取引先と今まで通りのコミュニケーションを取ることが難しくなり、困ったという声も聞く。

 日経TechFindは日経リサーチの協力を得て、コロナ禍の働き方に関する調査を実施。テレワークでの悩みと、その解決策として業務管理ツールや人工知能(AI)を利用することへの受容度について7090人に聞いた。さらに日経リサーチの分析ツール「KeyExplorer(キーエクスプローラー)」を用いて回答者の本音を分析。これらの調査・分析結果から、新ビジネスの種を探った。

 「部下が元気かどうか分からないことに不安を感じている」。調査で尋ねたテレワークの悩みとして浮かび上がってきた答えの一つがこれだ。

 テレワーク導入企業での悩みとして、従業員の働き具合が見えにくいという回答は容易に想像できる。ただ、それが労務管理や進捗管理の観点以上に、健康状態などを気にしているからだったことは、少々意外だった。

 一方、会社や上司がテレワーク中の勤務状況をチェックしたりする業務管理ツールについては、管理されることを嫌う声が多そうに思える。ところがこれも、肯定的・否定的の両方の回答があった。業務内容や人間関係、職場の雰囲気、給与水準などを考慮すると、ツールには適切な使いどころがありそうなことが見えてきた。以下で、これらテレワーク調査への回答から分析した結果を見ていこう。

導入済みは半数、目に見えた効果はワークライフバランスの充実

 今回の調査は2021年6月に実施した。日本全国の企業などに勤務する人、および自営・自由業の人を対象として7090人に聞いた。調査結果の分析に用いたKeyExplorerは、同じ回答をした人たちの特徴や傾向を調べられる*。例えば、テレワークに満足している人の特徴や、不満に感じている人の傾向を見ることができる。

*KeyExplorerでは、アンケートの複数の項目について、選択肢の定量データと自由回答のテキストデータを組み合わせて分析できる。これによって、回答者の属性ごとの特徴的な傾向を把握できる。

 まず、テレワークがどれくらい広がっているかを調べるために、勤務先で在宅勤務が導入されているかどうかについて尋ねた。結果は、「在宅勤務が全社的に導入されている(出社不要でも滞りなく通常業務ができる)」と答えた人が18.7%、「在宅勤務は部分的に導入されている(在宅勤務ができる範囲(セクションなど)が限られる)」と答えた人が27.6%だった。「在宅勤務はまったく導入されていない」と回答したフル出勤が49.9%と、全体の約半数の勤め先が在宅勤務を導入していないことが分かった。

Q:あなたの会社では、在宅勤務が導入されていますか(ひとつだけ)(N=7090)
Q:あなたの会社では、在宅勤務が導入されていますか(ひとつだけ)(N=7090)
構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100.0%とはならない。以下、同じ(出所:日経リサーチ、日経TechFind)
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 次に、全社的もしくは部分的に在宅勤務が導入されていると回答した3278人に本人の勤務状況を尋ねたところ、毎日在宅で働いている人(フル在宅)が23.9%、週に3日以上在宅勤務の人は19.3%、週に1~2日の人は18.9%だった。一方、会社で在宅勤務が導入されていても本人が在宅勤務できていない人(フル出勤)も28.8%を占めている。

Q:あなたご自身は、どの程度在宅勤務をしていますか。新型コロナ感染状況に応じて変わるという方は、現時点での状況をお答えください(ひとつだけ)(N=3278)
Q:あなたご自身は、どの程度在宅勤務をしていますか。新型コロナ感染状況に応じて変わるという方は、現時点での状況をお答えください(ひとつだけ)(N=3278)
(出所:日経リサーチ、日経TechFind)
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 テレワーク導入企業の回答者のうち、フル在宅、フル出勤、在宅勤務と出勤の両方を行っている一部在宅の3つで最も多いのは、一部在宅の人たちである。そこで、一部在宅の人たちの特徴をKeyExplorerで分析してみた。すると、女性より男性が多く、また組織の長として管理対象の部下を持つ人(管理職)が多かった。業種はエネルギー、素材、金融などが中心である。この人たちに「この1年で仕事上良い変化があったと思うもの」を尋ねたところ、「ワークライフバランス」を挙げた人が多かった。ワークライフバランスの充実には、在宅勤務と出勤の組み合わせが適しているかもしれない。

部下が「元気か」「辞めてしまわないか」を知りたい

 今度は、テレワークでの悩みや課題について見てみよう。まず、在宅勤務を導入していると回答した3278人に在宅勤務の満足度について尋ねたところ、「満足している」は26.1%、「まあ満足している」が44.0%を占めた。一方で、「あまり満足していない」が18.7%、「満足していない」が11.2%を占め、不満を持っている人も3割近くに達する結果となった。

Q:あなたは、勤務先における在宅勤務の状況について、どの程度満足していますか(N=3278)(ひとつだけ)
Q:あなたは、勤務先における在宅勤務の状況について、どの程度満足していますか(N=3278)(ひとつだけ)
(出所:日経リサーチ、日経TechFind)
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 このテレワークに不満を持っている人について、部下を持つ上司と、部下に分けて、詳しく分析した。部下を持つ上司に業務で気になっていることや悩みごとのうち最も深刻なものが何かを尋ねたところ、テレワークに不満を持つ上司たちは、部下のサボりや進捗管理よりも「部下の心身の健康状態を把握しにくい」ことを挙げる傾向が強かった。一方、部下の立場でテレワークに不満を持つ人は、「(上司に)正しく評価してもらえない不安がある」という回答を選ぶ傾向が強かった。

 いずれも業務そのものの進捗や管理についての悩みではなく、上司は「部下が元気でやっているか」、部下は「自分の頑張りが認められていないのではないか」という非対面ならではの不安を抱えている現場の状況がうかがえる。