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 注目度が上昇一途の「メタバース」。その勢いが止まらない。メタバースとは、インターネット上に構築される仮想の3次元空間を指す。米Facebook(フェイスブック)が2021年10月に社名を「Meta Platforms(メタ・プラットフォームズ)」に変更したり、米Microsoft(マイクロソフト)が2022年1月に米ゲーム大手のActivision Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)を687億米ドルで買収したりと、大手ITプラットフォーマーがメタバース事業拡大にかじを切っている。

 メタバースに対し、新規事業として参入を検討するデバイスメーカーやサービス事業者は多いはずだ。ただ、ちょっとだけ立ち止まって考えてみてほしい。

 「数年後には誰もが日常的にVR(仮想現実感)ヘッドセットを身につけ、好きなアバターでバーチャルのオフィスや学校に通ったり、現実を超えるような娯楽を体験したりする世界が当たり前になる。メタバース対応のデバイスやサービスは放っておいても飛ぶように売れる」

 もしもこのようにメタバースのビジネスチャンスを期待しているのなら、それは少し早計かもしれない。こうした世界の実現は、現状の市場の声からはあまりにかけ離れているからだ。

 日経TechFindは日経リサーチの協力を得て、オンラインサービスに関する消費者の意向調査を実施。日ごろのSNS利用やメタバース関連サービスの需要について、2781人に聞いた。さらに日経リサーチの分析ツール「KeyExplorer(キーエクスプローラー)」を活用し、世代や性別の属性ごとの回答を分析し、メタバース経済圏の可能性を探った。

「メタバースを利用したい」人はまだ少数派

 話題沸騰のメタバースだが、現状では単語が独り歩きしている感が否めない。

 例えば、実際にメタバース関連サービスを利用したことがある人はどれくらいいるだろうか。それ次第で、成立するサービスや見込める市場は違ってくる。そこで調査では、3次元空間でアバターを操り、他者とコミュニケーションする要素を持つサービスとして、「Minecraft(マインクラフト)」「Fortnite(フォートナイト)」「あつまれ どうぶつの森」「VRChat」「cluster」「NeosVR」の6つについて全回答者に聞いた。その結果、オンラインゲームの前者3つを普段から利用しているとした回答者は、それぞれ3.4%、2.1%、6.6%だった。

 一方、VR機器を活用して没入感の高いメタバース体験ができる後者3つについては、順に0.8%、0.7%、0.6%といずれも1%に満たなかった。新しもの好きやマニアの「とがった層」が飛びついているのが現状といえる。

 メタバースにおいて、事業化の可能性がある分野のひとつにアバターの販売がある。そこで「バーチャル空間でアバターを着飾るためにバーチャル上のファッショングッズを買う」行為についても尋ねたが、「やってみたい」と答えた人は全体のうち19.4%にとどまった。さらに、実際にオンラインゲームで「アバターの服やゲーム内の武器など、オンライン空間内商品」を購入したことのある人は7.1%にとどまる。普段からオンラインゲームでアバターや武器、ガチャなどに課金している人を除けば、「メタバース世界での自分の姿にお金を払う」ことに価値を感じる人はまだ少数派といえる。

 それでは、メタバース事業への参入戦略はどのように考えればよいだろうか。まずは、メタバースで何ができるか、どんな体験をできるかといった価値やユーザーメリットを示す必要がある。目的が分からないまま「メタバースを利用したいか?」と消費者に問うても、現在のとがった利用者以外のマジョリティー層には響かないからだ。

 例えばAI(人工知能)やIoT(Internet of Things)、5G(第5世代移動通信システム)など、各種テクノロジーを普及させることが目的化してしまい、事業で失敗する例は数多い。あらゆるものをインターネットにつなげるといっても、目的もなしにIoTを導入することには意味がない。IoTで何を改善したいかという目的があってはじめて、導入の検討の余地が生まれる。メタバースも同じだ。何も言われなくてもメタバースに価値を感じ「利用したい」と考える人は、まだ、オンラインゲームのユーザーなどごく一部に限られる。

「楽しいこと」から事業の種を探す

 では、メタバースを使うとどんな楽しいことや特別な体験ができるのか。消費者がメタバースを利用したいと思えるシーンとは何だろうか。そこを探るために、1588人の消費者(回答者のうちの画像提供者)の意識にある「楽しいこと」を調査・分析した。具体的には、「あなたが楽しかったこと」というお題を出して、自分自身が撮影した写真などの画像を回答者に提供してもらい、属性別の傾向を分析した。画像をGoogle Cloud Vision APIで自動的にタグ付けし、日経リサーチのKeyExplorerを使ったフォトマイニング調査によって分析した

* KeyExplorerは、アンケートの質問項目について、選択肢の回答データとテキストデータを組み合わせて分析できる。これによって、回答者の属性ごとの特徴的な傾向を把握できる。

 調査の結果、好きなことや楽しんでいることは年代によってかなり異なることが分かった。メタバース戦略を考えるうえでヒントになりそうだ。どのような画像が集まったのか、そしてそこからどのようなメタバース戦略が考えられるのか、世代別に見ていこう。なお、本記事では便宜上、16~25歳を「Z世代」、26~35歳を「ミレニアル世代」、36~45歳を「アラフォー世代」、46~55歳を「アラフィフ世代」と定義して表記する。

 まずZ世代では、友達が集まって指と指を合わせて星形やハート形を作っている写真や、同じ食べ物や記念品を手に持っている画像など、複数人が一緒にいることを「手」で表現したものが目立った。友達4人でポーズをとった姿が壁に映った「影」の写真も印象的である。顔を直接撮らず、手や影などで「一緒にいること」を表現する点や、見栄えのよいポーズ/シーンを意識することが多い点はZ世代の特徴といえる。

Z世代が「楽しい」と感じるときに撮影した写真(出所:日経リサーチ)
Z世代が「楽しい」と感じるときに撮影した写真(出所:日経リサーチ)
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 友達と一緒にいる写真はミレニアル世代からも挙がったが、それらは顔を写す集合写真が多かった。集合写真に比べて、Z世代が挙げた写真に「映え」を感じる読者は多いのではないだろうか。こうした写真をシェアして楽しんでいる光景が目に浮かんでくる。

 友達と実際に会えることがもっとも楽しいのは当然だろう。しかしメタバースならば、リアルではなかなか会えない友達とも一緒の時間を過ごせる。同じメタバース世界にログインして、Zoomのような映像だけでなく、体の動きや表情の変化などを細かく伝えられるようになれば、同じ時間に同じ場所で過ごす楽しさを共有できる。メタバース上で指と指を合わせて星形やハート形を作り、映える写真を撮ってシェアすることも可能だ。

 Z世代が挙げた画像には、アイドルの写真やスマホゲームのキャラクターのスクリーンショット画像など、「推し」の画像も目立った。アニメやゲームのキャラクターであれば、3次元モデルをメタバース世界に配置することで、会いに行ったり仮想的にコミュニケーションをとったりできるかもしれない。

クリスマス、アウトドア、犬

 ミレニアル世代が挙げた画像は、クリスマスツリーや街路のイルミネーションの写真が圧倒的に目立った。限られた時期でしか見られないイベントの特別感、装飾やライトアップの演出に価値を感じているとみられる。メタバース世界で季節に合わせたコンテンツを提供したり、現実には不可能なCGの風景を提供したりしたら喜ばれそうだ。

特別な季節イベントを楽しむミレニアル世代(出所:日経リサーチ)
特別な季節イベントを楽しむミレニアル世代(出所:日経リサーチ)
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 アラフォー世代は、キャンプや登山、スポーツなど、屋外に出かけるアクティブなシーンを写した写真が多かった。メタバースで実際の山やキャンプ場などを再現し、その土地や臨場感のあるバーチャル体験を提供することで、その土地や住民の魅力に触れるきっかけとなり、それによって「今度は実際にその土地を訪れて観光してみよう」と考える人が出てくるかもしれない。

アラフォー世代は屋外でアクティブな活動を楽しんでいる(出所:日経リサーチ)
アラフォー世代は屋外でアクティブな活動を楽しんでいる(出所:日経リサーチ)
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 アラフィフ世代で圧倒的に目立ったのは「犬」の写真だ。この世代の多くの人が、犬と一緒にいることで癒やされ、楽しい思いを感じている。「犬と触れあうのはリアルならでは」と考えられがちだが、メタバースならではのサービスも可能だ。例えば、実際には犬を飼えない人が3次元空間で犬と遊ぶことができる。家の大きさやアレルギー、近所迷惑を気にせずに、好きな犬と触れあえる環境は貴重だ。また、亡くなったペットの個性をデジタル化し、メタバース上で再現して一緒に遊ぶこともできるだろう。

アラフィフ世代は飼い犬や亡くなった愛犬の思い出の写真を挙げた(出所:日経リサーチ)
アラフィフ世代は飼い犬や亡くなった愛犬の思い出の写真を挙げた(出所:日経リサーチ)
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