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 W3C(World Wide Web Consortium)やIETF(Internet Engineering Task Force)をはじめとする多くの標準化団体はGitHubなどのコラボレーションツールを駆使して開発スピードをどんどん速めている。このような開発や仕様策定のプロセスで意思決定を迫られる技術者は「会社に持ち帰って検討する」といった回答は許されない。

写真●2019年9月に福岡で開催されたウェブ標準化団体であるW3Cの年次総会に当たる「TPAC 2019」の模様
写真●2019年9月に福岡で開催されたウェブ標準化団体であるW3Cの年次総会に当たる「TPAC 2019」の模様
撮影:深見 嘉明
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 ウェブアプリケーションを実現したHTML5や自動車の電子化に伴う産業構造変革には、組織の壁を越えたデータ流通・共有が必要となる。組織を越えた流通を実現するのに必要なのが標準化されたデータ仕様であり、オープンソースソフトウエア(OSS)である。それらオープンなプラットフォームは、組織を越えた開発者同士の協働によって達成される。

 標準化という共通の目標を達成するために、開発者の間では共通規範が形成されることが多い。標準化団体やOSSコミュニティーの現場にいる企業の技術開発担当者と話をすると「オープンで特定企業の利益を反映しない開発ポリシーの重要性」を語り出す。彼らにとって自らの活動はコミュニティーを通じた社会貢献であるというわけだ。

 その一方で、標準化は各企業の戦略に直結している。よって企業に所属する標準化やOSSの開発担当者は、開発者コミュニティーと所属企業間の利害調整の役割を担うこととなる。コミュニティーの規範と企業の経営戦略をともに深く理解し、その場で両者の利益を両立させる形で答えを出すことが求められる。

 戦略的にオープンプラットフォームを活用して産業構造の変革に成功してきた企業は多くの場合、トップマネジメント層がビジネスモデルの構想に基づいて技術戦略を立てたうえで、現場の標準化担当者が自律的に判断できるような規範や基準を設定する手法が取られている。

 現場の担当者は基本的にコミュニティーの規範に基づいて行動する。そのため、コミュニティーの規範に相反しない形で、自社戦略に基づいた技術仕様を開発して、仕様の採用を促していかねばならない。標準化を担当するマネジャーには、企業の利得とコミュニティーの規範のバランスを取った戦略立案と標準化活動の指揮が求められるのである。 

開発者コミュニティーと経営戦略のバランス感覚が重要

 企業のトップ経営層はどうすれば良いのか。標準化やOSSの開発者に明確な活動指針を提示する必要がある。これは開発担当者がオープンプラットフォームの構築に貢献できるための必要条件である。

 このような実情を踏まえて、日本企業が必要とする標準化人材がどのような特徴を備える必要があるのか説明しよう。

 戦略的な標準化活用には、自社の経営戦略とオープンな開発者コミュニティーの発展を両立させる規範や基準が必要であり、それに基づいて開発者が自律的に標準化活動を推し進められなければならない。

 筆者の考えでは、標準化の成功には2種類の人材が必要だ。まずは経営トップ層である。産業構造(アーキテクチャー)をどのように転換させ、新たなビジネスモデルを創出するかという自社の戦略を立てる必要がある。加えて、開発者コミュニティーが共有する基盤との整合性を検討し、標準化活動を担う技術者をディレクションしなければならない。

 この役割を担うのは最高経営責任者(CEO)や最高技術責任者(CTO)である。データ経済に勝つ組織をつくり上げるためには、CEOやCTOの役割が再定義されねばならない。

 次に標準仕様策定を担う技術者である。コミュニティーが共有する規範と所属組織の戦略を両立させる形で共通目標を設定する必要がある。多様なステークホルダーと協力してオープンプラットフォームの開発を進めなければならない。

 開発工程の中には利害対立の表出は不可避であり、その場その場で粘り強く調整していきながら、ぶれずに共通目標へと近づき、産業構造の変革を達成する。技術と経営戦略をともに熟知し、共有する規範に即して合意形成を図り、実装を普及させるというプロセスを自律的に推し進めていくのだ。