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「データ活用の本質、データ流通の未来」をテーマに、日本を代表するCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)、有識者など約40人が議論した。日経BPが2019年9月25日に都内で開催した「日経 xTECH ITイノベーターズ会議」で飛び出した発言を紹介しよう。

 データ活用で多くの企業がぶち当たる壁が「十分なデータが集まらない」問題だ。デジタル化のキーパーソンやITベンダーの有識者に意見を聞いた。

必要なデータを全て集めようとするとROIに見合わない

――デンソー 技術開発センター デジタルイノベーション室長 成迫 剛志 氏

 自動車部品大手のデンソーでデジタル化をけん引する成迫剛志技術開発センター デジタルイノベーション室長はデータ収集の難しさについて本音で語った。その一例として、あるエピソードを披露した。クルマの計器類から取れるデータを分析して、事故を減らすアイデアを見つけ出そうとしたのだ。しかし、有効な分析結果は得られなかったという。

 アイデアを見つけられなかった主な理由はデータ不足。急ハンドルや急ブレーキをした履歴などはデータとして残っているが、「急ハンドルや急ブレーキをしそうになったが実際にはしなかった」ときなどのデータがなかった。比較対象のデータがないため、急ハンドルや急ブレーキの予兆を特定できなかった。

デンソーの成迫剛志技術開発センターデジタルイノベーション室長
デンソーの成迫剛志技術開発センターデジタルイノベーション室長
(撮影:井上 裕康、以下同じ)

 しかし、平常時の運転データまで全て取得しようとすると「ROI(投資対効果)的に見合わない」(成迫室長)。データ量が膨大になり、通信やストレージにかかるコストが桁違いになると見込まれるからだ。

 そこで成迫室長は「まずはやりたいことの戦略を練り、そのために必要なスイートスポットのデータは何かを特定して、その部分のデータを取得する手段を講じるしかない」と考えた。

 逆に、「何がスイートスポットのデータなのか分からないから、何でもかんでも全部データを集めておこう、といったデータ分析の仕方は経済的に合理的ではないだろう」と話す。

データ不足の壁、献血の精神で打開

デジタルガレージ 執行役員 CDO(チーフデータオフィサー) 渋谷 直正 氏

 デジタルガレージの執行役員でCDOを務める渋谷直正氏も「1社でのデータ収集には限界がある」と主張した。

 渋谷執行役員は2019年3月まで日本航空に在籍し、自社EC(電子商取引)サイトのデータ分析などを手がけていた。「社内外の様々なデータを組み合わせて、お客様に喜ばれる商品提案などをしようと一生懸命に分析した。しかし、1企業が入手できる情報だけでお客様の全てを知ることは、当然できなかった」(渋谷執行役員)

 1社でのデータ収集に限界を感じた渋谷執行役員は、「企業が顧客から許可を得て情報を集めて活用するアプローチ自体が時代遅れなのではないか」と問題提起した。

デジタルガレージの渋谷直正執行役員CDO(チーフデータオフィサー)
デジタルガレージの渋谷直正執行役員CDO(チーフデータオフィサー)

 その代わりに渋谷執行役員が注目しているのは、「PDS(パーソナルデータストア)」や「インテンションエコノミー」といった概念だ。PDSは消費者が自分の個人情報を自身で管理する仕組みのこと。インテンションエコノミーは、消費者が自分の欲しい商品を企業に直接訴え、要望に応えられる企業がその消費者に販売する経済のあり方だ。企業が消費者の関心を引くために自分の商品の良さを訴える現在の状況とは正反対である。

 PDSとインテンションエコノミーに共通するのは、顧客が中心になって自分の個人情報を取り扱っている点だ。「顧客自身が管理するので、その顧客にまつわる全てのデータが自然と集まる。これまでは企業が社内外の複数のシステムからデータを集めて名寄せしていたが、その必要はなくなる」(渋谷執行役員)

 ただしデータの管理主体が顧客になると、企業としては、消費者から個人情報を提供してもらうためのインセンティブが必要になる。「データを提供することがお客様のメリットになるようなビジネスモデルを作ることが今後の課題」と渋谷執行役員は言う。

 渋谷氏が今、参考にしているのが「献血」だ。献血では、血液を提供する人に直接的なメリットはほとんどない。しかし、その血液によって誰かの命が救われるかもしれないし、医療が発達するかもしれない。より多くの人が献血することで、間接的に血液の提供者にもメリットがある。

 この考え方をデータ提供に応用する。「企業がもうけるためではなく、社会問題の解決のためであれば、データを提供する人が出るのではないか」と渋谷執行役員は言う。例えば国内の犯罪が減ったり道路の渋滞が緩和されたりするようになれば、データが集まるかもしれない。

 顧客が進んでデータを提供するような目的を掲げる。データ不足の限界を突破する1つの策だろう。