全2449文字
PR

旭化成でなければノーベル賞は取れなかったか

残念ながら、リチウムイオン2次電池に関しては日本メーカーのシェアが落ちています。

吉野氏:リチウムイオン2次電池で日本メーカーのシェアが落ちているのは事実だ。これは、同電池を使うスマートフォンやノートパソコンなどの最終製品の生産拠点が中国や韓国に移ったからだ。これにより、必ずしもリチウムイオン2次電池を日本で造る必要がなくなった。

 だが、必ずしも元気が全て失われたわけではない。正極や負極、セパレーターといった材料は、日本メーカーが品質の点で優位性を保っている。

 スマートフォンでも日本メーカーは衰退を見せているが、一方で材料や部品は圧倒的に日本メーカーが優位に立っている。つまり、私たちが日ごろ目にする最終製品は確かに衰退しているが、目立たないものの、すなわち製品の中に搭載されている材料や部品は高い競争力を発揮しているのだ。

 今後、日本の産業をもっと元気にさせるには、「川上」の材料をこれまで通り改良していくことはもちろんだが、もっと顧客の立場で評価する技術を身に付ける必要がある。評価技術のレベルを高め、自分が造る材料がユーザーにどう使われているかを調べて、どのような材料にしたらよいかを知るべきだ。これにより、材料はもっと強くなっていく。

 ただ、日本の産業がさらに元気になるには、やはり理想的な「川下」、すなわち最終製品が欲しい。川上の材料と、川下の最終製品の両輪が回り出すと、日本はもっと強くなるはずだ。

もしも旭化成に入社していなかったらノーベル賞は受賞できなかったと思いますか。

吉野氏:私が電池メーカーに入社していたら、間違いなくリチウムイオン2次電池はできなかった。この電池は、材料から自分で開発しないと開発の壁を乗り越えられなかったからだ。逆に言えば、材料から開発したからこそ、リチウムイオン2次電池を作れたのだ。

 というわけで、旭化成かどうかはともかく、材料メーカーに入社していたらリチウムイオン2次電池を作れた可能性はあるが、電池メーカーに入社した場合は無理だっただろう。材料を自ら開発していないからだ。

国に頼らず自力で戦う精神力

吉野さんは京都大学出身です。同大学はノーベル賞に強い印象があります。

吉野氏:京都大学では、「人がやっていないことをやる」「人がやっていることは絶対にやらない」という反骨的なところがあり、それが伝統になっている。企業に目を転じると、川上にある材料や部品を造る日本メーカーとして世界的に頑張っているのは、ほぼ全て京都の会社だ。これはやはり、京都の持つ反骨精神のなせる業(わざ)だろう。一般に、京都の人間は東京(国)のことをあまり好きではない。お上(国)に頼らず、自らの力でやっていこうと考える。結果として、それがグローバルで戦える競争力を生んでいる。

 心配なのは、日本全体で見た大学だ。人のやっていないことを研究テーマに選ぶと研究費が取りにくいといった変なことが起きている。京都大学のように、人がやっていないことをやるんだというところを、ぜひ強めてほしい。