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 Nさんは全員から月報を受け取ると、すべてに目を通し、項目ごとに4段階(花◎、◎、○、△)で評価してコメントを記入する。指導相手が若手だけに、やる気を引き出すことを重視しているので、コメントは基本的に褒め言葉が中心だ。「◎他の顧客企業にも適用できそうです」という具合である。

 ただし文章表現の誤りについては、細かなことまで注意する。例えば「成果」の記述が「○○プログラムを作成する」のように動詞で終わる文章になっていると、必ず文末を名詞に直すよう指示する。

 その目的をNさんはこう説明する。「成果に対する自己評価や目標設定を曖昧に書いていると、今後の取り組みに対する目的意識が薄れてしまう。明確で具体的な文章で書けるように訓練しないと、自律的に行動できるスタッフは育たない」

 評価内容は1つの文書ファイルにまとめて全員に公開する。他人が書いた月報の内容やコメントを見ることは、どのスタッフにとっても今後の参考になるからだ。

習得内容の発表で理解を深化

 さらに努力が認められる社員には、習得内容を社内発表会で報告させる。「他のスタッフの前で報告することは、習得内容をもう一段深く理解することにつながる。それに準備が不十分だと次々に質問を浴びせられるから、反省材料にもなる」(Nさん)という。

 月報と発表会はいずれも、A社が親会社の運用サービス部門だった時期にNさんが始めたものだ。約1年半が経過したが、月報を詳しく見ると、スタッフによる習得内容のレベルにはまだばらつきがある。だが「目的意識を持って日々の仕事に取り組む姿勢がようやく浸透してきた」とNさんは実感している。

 Nさんはこうした指導を通じて、目的意識の大切さだけでなく仕事に対する価値観も若手スタッフに伝えたいと考えている。例えば、月報に記入する「成果」の内容について「何らかの形で顧客に貢献するものでなければ成果とは言えない、という顧客第一主義の考え方を、指導の早い段階で徹底している」(Nさん)

 このような指導の基本にかかわるNさんの考え方は以前から変わらない。Nさんはかつて30年以上にわたり大手製造業の情報システム部門で活躍した。あるITベンダーからその大手製造業に約5年間にわたって常駐し、Nさんの指導を受けたKさんはこう振り返る。「入社後間もなかった私は当時30代のNさんから『エンドユーザーの満足度こそ第一』という価値観をたたき込まれた。エンドユーザーからみればシステム部門とITベンダーの立場は同じだと言って、分け隔て無く指導してくれた」

 今はA社の若手スタッフたちが、こうしたNさんの信念と思いに触れながら、日々の運用業務に取り組んでいる。