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日中は起業したIT企業の役員を務め、早朝に純文学を書く「クロステックな作家」上田岳弘氏が「アート&テック」をテーマにアーティストやテクノロジストと語り合う。今回の対談相手、ニール・ヒンディ氏は企業がアートの力をビジネスに取り入れる活動を支援する。コロナ禍を受け、ヒンディ氏は指摘する。「世界は今後も不安定、これまで築いてきた仕事や自分を再発明する必要がある。そのときアートの力は欠かせない」(構成=谷島 宣之、通訳=大石 有美、長谷川 雅彬)

(写真:新関 雅士)
(写真:新関 雅士)
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上田: 対談の前半でビジネスパーソンたちに、アートの思考についてしっかりと理解してもらうことが大事だと指摘されました。アフターコロナか、ウィズコロナか、どうなるか分かりませんが世界がこうなった今、アートの役割を改めてどう見ていますか。

ヒンディ: アーティストのマインドセットがさらに重要になったと考えています。新型コロナウイルスがまん延したことで、世界の潮流は人中心に戻らざるを得ないとお話しました。

 ニューノーマル、日本でいう新しい生活様式を前提としたとき、それに適応するための柔軟性や俊敏性が求められます。しかも世界は今後も不安定でしょうから、その中でやっていくスキルがいる。これまで築いてきたこと、従来の自分を新たに再発明することも必要でしょう。未来を創造することになるかもしれません。こういった活動にあたって、お話してきたアートの力が欠かせません。

Nir Hindi(ニール・ヒンディ)
Nir Hindi(ニール・ヒンディ)
イスラエル テルアビブ出身の起業家。アートの世界の実践やプロセス、テクニックに基づき、イノベーションと創造性に関するトレーニングを提供するThe Artianの創業者。前スペイン国王フアン・カルロス1世によって設立された、スペインでイノベーションを促進する組織「コテック」の100人のエキスパートの1人。マドリードにあるIEビジネススクールの客員教授、デザインスクールIstituto Europeo di Designの客員講師。著書に『世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること』(長谷川雅彬監訳、小巻靖子訳、クロスメディア・パブリッシング)がある。(写真:新関 雅士)
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上田: テクノロジーについてはどうですか。

ヒンディ: もう一度、人を中心に据えた視点から問い直されます。多くの人が家の中で待機を迫られました。家には米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)の「Alexa」か、米Google(グーグル)の「Google Home」があるかもしれません。こうしたデバイスは話ができますし、いくつかのタスクをこなせますし、アイデアを提示してくれます。しかし、人々の気持ちを真の意味では理解できません。3~4カ月も隔離状態に置かれたことの意味を考えられるのは人間だけです。

 仕事に行けない、学校に行けない、そういう状況下の人々の感情を理解する、これはAI(人工知能)にはまだ無理です。でもアーティストならできる。

上田: 答えが分からない世界になったからこそアートの重要性が高まる、という指摘には共感します。

上田岳弘(うえだ・たかひろ)
上田岳弘(うえだ・たかひろ)
1979年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、IT企業の創業に参画し、現在は役員を務める。2013年『太陽』で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。2015年『私の恋人』で第28回三島由紀夫賞、2018年『塔と重力』で第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞、2019年『ニムロッド』で第160回芥川龍之介賞を受賞。著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『異郷の友人』『塔と重力』『ニムロッド』『キュー』がある。(写真:新関 雅士)
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