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早朝に純文学を書き、日中は起業したIT企業の役員を務める “クロステックな作家”上田岳弘氏が「アート&テック」をテーマにアーティストやテクノロジストと語り合う。今回の対談相手は都市再生の成功例としても有名なビルバオ・グッゲンハイム美術館でキュレーターを務めるマヌエル・シラウキ氏。欧州委員会のプロジェクトS+T+ARTSのキュレーターも兼ね、欧州最重要キュレーターの1人であるシラウキ氏はブロックチェーン、AI(人工知能)、バイオテクノロジーに注目し、テクノロジーがアートや社会を変えつつも、人々が望むのは日々の幸せと充実だと語る。(構成=谷島 宣之、通訳=長谷川 雅彬、大石 有美)

上田: 小説を書くとき、今までにないものをどうつくるかと考え、意識的に分野横断、具体的にはこれまで書かれていないIT関連のモチーフを取り込んできました。ITというテクノロジーによって世界がつながる半面、平準化が進みます。

 一方で、シラウキさんが話された「インターナショナルな視点からローカルの価値を見いだす」ということも起きる。ローカルということでは日本のアートをどう見ておられますか。

シラウキ: 日本のアーティストとの関わりはもちろんあります。新しいアートの在り方という点でさまざまな発見があり、彼らから多くを学ぶことができました。

Manuel Cirauqui(マヌエル・シラウキ)
Manuel Cirauqui(マヌエル・シラウキ)
現代アート、デザイン戦略、実験アカデミアの交差する場所で活動するキュレーター、作家。ビルバオ・グッゲンハイム美術館でキュレーターを務める。バルセロナ自治大学にあるシンクタンクEina/Ideaの創立者兼ディレクター。欧州委員会が先導するプロジェクト、S+T+ARTSのキュレーターも兼ねる。ビルバオ・グッゲンハイム美術館のSoto. The Fourth Dimension(2019)、Art and Space(2017)などの展示やFilm & Videoプログラムを監修。メキシコMuseo Tamayoや米Dia Art Foundationの国際アートプロジェクトを手掛けた。
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 ビルバオ・グッゲンハイム美術館の常設展示の1つに中谷芙二子(なかや ふじこ)さんの作品が入っています。

注:「霧の彫刻」。美術館の裏側にある橋の下から霧を出し、霧がさまざまな形をつくっていく。

ビルバオ・グッゲンハイム美術館の常設展示「霧の彫刻」
ビルバオ・グッゲンハイム美術館の常設展示「霧の彫刻」
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シラウキ: 日本古来の自然とのつながりとテクノロジーを掛け合わせたものです。霧を吹き出す装置自体が作品でもあります。

 関根伸夫やオノ・ヨーコといったコンセプチュアルアーティストにも注目しています。

注:関根伸夫は彫刻を手掛けた現代アート作家。美術館にとどまらず都市の中に作品を設置し往来のある空間を活性化させることに取り組んだ。

注:オノ・ヨーコ(小野洋子)は前衛芸術家、音楽家。ジョン・レノンと結婚、共に活動した。

 S+T+ARTS関連では菅野創(かんの そう)とコラボレーションをしました。機械が壁に絵を描いていくという、ロボティクスとグラフィックアートの掛け合わせでした。

注:菅野創は音楽演奏や絵を描くデバイスやロボットを製作する。歯車が演奏する『Jamming Gear』で2009年のメディアアートイベントのアルスエレクトロニカでデジタル・ミュージック部門オノラリー・メンション受賞。

 それからDNA情報から楽曲をつくった、やくしまるえつこの“I'm Humanity”もユニークでした。

注:“I'm Humanity”(「わたしは人類」)は楽曲(CD、配信)と楽曲のデータを組み込んだ遺伝子組み換え微生物で構成されるアート作品。メディアアートイベントのアルスエレクトロニカでSTARTS Prize 2017 グランプリを受賞した。

上田: ある読者から「上田さんとやくしまるえつこさんの世界観は似ていますね」と指摘され、一時期よく聴いていました。『わたしは人類』を聴きながら短編を書いたこともあります。

注:『わたしは人類』を聴きながら書いた短編とは『悪口』(単行本『旅のない』所収)