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 日中はIT企業の役員を務め、早朝に純文学を書く「クロステックな作家」上田岳弘氏が「テック×アート」をテーマにアーティストやテクノロジストととことん話す対談の第2回。ゲストは1回目に続き、ミュージシャンの波多野裕文氏(People In The Box)。テクノロジーの進化によって便利になったが世界は息苦しくなっている。そうした中、人間はどう生きていくのか。アートはどういう役割を果たすのか。互いの最新作を題材に2人が語り合った。(構成は谷島宣之=日経BP総研)

(写真:菅野勝男)
(写真:菅野勝男)
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上田: People In The Boxの楽曲『ニムロッド』を聴いて、いつか同じ題名の小説を書きたいと思っていました。その作品『ニムロッド』で芥川賞をいただきました。波多野さんが書いたニムロッドの歌詞は一節一節が刺さるのですが「科学はいい線までいった」にはしびれました。その通りだ、科学やそれに基づくテクノロジーはいい線までいったのに、と同意しつつも、一体これは何様の目線なんだろう、過去形で言い切っているし、と考え込みました。あれは神の視座からですか(笑)。

波多野: 何でしょうね……(笑)。実はそのくだりを自分ではそれほど強く意識してつくった覚えがありません。ただ、『ニムロッド』が入っている『Citizen Soul』というミニアルバムを2012年の年明けに出しました。つくっていたのは3.11の後です。当時、不可避的に科学やテクノロジーについてすごく考えていました。

波多野裕文(はたの・ひろふみ)
波多野裕文(はたの・ひろふみ)
1981年 福岡県北九州市生まれ。 2007年にデビューしたオルタナティブロックバンドPeople In The Boxにおいてボーカル、ギター、キーボードを担当。現在に至るまで7枚のアルバムを発表。独自の音楽性と歌詞で評価を受ける。2016年にはソロアルバムを、2017年にはデュオ橋本絵莉子波多野裕文としてアルバムを、それぞれリリースしている。(写真:菅野勝男)
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上田: 3.11の当日はどこにいましたか。

波多野: ライブツアーのために移動中で車の中にいたので揺れに気づきませんでした。身体的には体験していなかったわけです。実感がないまま、色々な報道や情報に接して、後々じわじわ大変なことが起こったのだと思いました。何か足場が揺らぐような感じがあり、3.11以降、作品をつくる姿勢も一変しましたね。

上田: 僕は明石で阪神大震災に遭い、大揺れを体験しました。あの瞬間はよく覚えていて、なぜか「すべて嘘だった」と思いました。今まで生きてきて色々やってきた、それは何だったのか、という謎の憤りを感じたのです。3.11の時は東京のオフィスにいてビルの7階でしたけれどもかなり横揺れしました。阪神淡路の経験があったので結構冷静で「この横揺れなら大丈夫」と周りの人に解説していました。でもその後、事故の報道を知ってあわ立ちました。

上田岳弘(うえだ・たかひろ)
上田岳弘(うえだ・たかひろ)
1979年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、IT企業の創業に参画し、現在は役員を務める。2013年『太陽』で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。2015年『私の恋人』で第28回三島由紀夫賞、2018年『塔と重力』で第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞、2019年『ニムロッド』で第160回芥川龍之介賞を受賞。著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『異郷の友人』『塔と重力』『ニムロッド』『キュー』がある。(写真:菅野勝男)
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波多野: 僕は科学に詳しいわけではないのですが、例えば原発のような科学やテクノロジーの粋を集めたはずの創造物がああいうことになってしまった。現実的には無理のあるはずのものが様々な精査をすり抜けて現出してしまう。考えれば考えるほどそこに人間の本質が投影されている気がしました。人間というのは知らず知らずのうちに簡単に一線を越えてしまうものだとも思いました。

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