「専用エンジンの開発は、『e-POWER』の販売が軌道に乗ってから。まずは開発費を回収できるだけの規模を確保しないと」。日産のパワートレーン技術者は、シリーズハイブリッド車(HEV)「ノートe-POWER」を発売した2016年11月に不安と期待が入り交じったような表情で語っていた(図1)。
3年の月日がたった2019年11月4日、日産はシリーズHEV向けの発電専用エンジン「MR15DDT」を開発中であることを明かした。この発表は、e-POWERが量産規模を確保し、日産の電動化電略の主軸となったことを意味する。
HEVの開発では、トヨタ自動車やホンダなどの競合はシリーズパラレル方式を推す。対する日産は、エンジンを発電のみに使ってモーター駆動するシリーズ方式で差異化を図る。シリーズHEVの特徴を際立たせる重要な武器として、発電専用エンジンを用意した。日産の高級車ブランド「インフィニティ(Infiniti)」で2021年以降に投入する車両から搭載していく見込みである(図2)。
VCRだけでは熱効率50%は実現できず
新エンジンが狙うのは、最高熱効率50%の実現だ。日産の総合研究所で所長を務める土井三浩氏は新エンジンについて、「熱効率50%が技術的に成立することが見えてきた」と語る。
日産は熱効率を高める手段として、MR15DDTに可変圧縮比(VCR:Variable Compression Ratio)の技術を投入することを発表した。だが、VCRだけでは50%は達成できない。
日産への取材から、VCRに加えて2つの技術を新エンジンに投入することが分かった。さらに、モーター駆動の利点である静粛性をさらに高める制御技術と組み合わせる。次世代e-POWERの姿が見えてきた。