設計や施工でそれぞれ進んできたCIMを連携させ、事業プロセス全体を効率化する取り組みが始まった。国土交通省は2019年3月、全国で12のモデル事業を選定。3次元データの一気通貫に向けた課題などを洗い出す。九州地方整備局のダム分野の取り組みを紹介する。
発注者が自らCIMを使いこなす
立野ダム本体建設事業
国土交通省九州地方整備局で3次元情報活用モデル事業に選定されたのが、立野ダム(熊本県)の本体建設事業だ。2018年8月に起工式が開かれ、現在、基礎掘削などが進んでいる(写真1)。
九州地整は13年に「九州地方CIM導入検討会」(委員長:小林一郎・熊本大学大学院特任教授)を設置して、CIMを推進してきた。特に先行しているのがダム分野だ。14年度にCIM導入検討会の下にダム分科会を設け、立野ダム、嘉瀬川ダム、大分川ダム、本明川ダムの4カ所でCIMの試行を始めた。
これらの4ダムは、ちょうど事業の進捗段階が異なっていた。試行を始めた当時、本明川ダムが調査、立野ダムが設計、大分川ダムが施工の段階だった。嘉瀬川ダムは既に完成し、維持管理をしている状態だった(図1)。
九州地整では、CIMモデルを維持管理まで引き継ぐことを目的に、これらの4ダムで各段階のCIM活用の課題を洗い出すことにした。明らかになった課題を事業の前段階に反映させていく。例えば、施工段階でCIMモデルに求める情報を、設計段階から盛り込むようにする。
200台のCIM用パソコン
九州地整のCIMの特徴は、発注者が自らCIMを使うことに力を注いでいる点だ。CIM導入検討会の委員長を務める小林特任教授は、「受注者にCIMをやらせているだけでは駄目だ」と強調する。
発注者がCIMを使いこなせれば、維持管理にデータを活用できる。「設計や施工はそれぞれの業者に任せてもいい。でも、管理は発注者が担当する。次に始まる『調査』にもつながるので、発注者自身がデジタル情報を駆使できるメリットは非常に大きい」。小林特任教授はこう指摘する。
例えばダムの場合は、管理段階で漏水などのトラブルが発生した際に、CIMモデルが役に立つ。
「ダムの漏水量が突然増えた場合、施工時の記録を見て岩盤の状況を知ると、原因の見当を付けやすい。1つのCIMモデルとして残してあれば、何百枚もの図面の中から必要な情報を探し出さなくてもいい」(国交省立野ダム工事事務所工事課の梅田光工事第二係長)
CIMを使いこなすために、九州地整ではCIMが使えるハイスペックのパソコンを順次整備してきた。今では局全体で200台に上る。CIMのために、これだけの台数をそろえた地方整備局は他にないという。
「ハードとソフトがそろったから、今度は人材の育成だ」と小林特任教授は言う。
九州地整は17年度、CIMを試行する4つのダム事務所でCIM活用チームを発足させた。各事務所の担当係長が集まってCIM活用上の課題などを検討し、情報交換をする。
同時に、4事務所に1人ずつ若手の担当職員を割り当て、CIM操作チームを発足させた。メンバーは講習会に参加してCIMソフトの操作を習得。日常業務でCIMを自ら活用している。