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 CIMが原則となり、3次元データの活用が当たり前になる──。CIM時代の到来に先駆け、各社は3次元のメリットを引き出す様々な取り組みを展開する。CIMを使いこなす人材の育成も欠かせない。先行する建設会社の取り組みを紹介する。

全国初、狭小歩道にICT建機
加藤組

 幅がわずか1.5mの歩道。こんなに狭い現場でのICT施工に果敢に挑戦したのが、広島県三次市の加藤組だ。排土板付きのミニショベルにマシンガイダンス(MG)のシステムを搭載し、舗装前の敷きならしに利用した。幅1.5mに対応した小規模のICT建機は市販されていないので、同社は日立建機のグループ会社の協力を得て、独自に製作した(写真1)。

写真1■ 幅1.5mの狭小現場に導入したICT建機。幅1.5mに対応したミニショベルを日立建機が持っていなかったので、他社製の機械を使った (写真:加藤組)
写真1■ 幅1.5mの狭小現場に導入したICT建機。幅1.5mに対応したミニショベルを日立建機が持っていなかったので、他社製の機械を使った (写真:加藤組)
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 導入したのは、国土交通省三次河川国道事務所が2016年度に発注した国道54号下布野歩道工事だ。全国でも類を見ない取り組みが評価され、18年度i-Construction大賞の国土交通大臣賞を受賞した。

 同社が受注した当時、国交省は土量が1000m3以上の土工事で「ICT活用工事」を試行していた。ICT活用に指定した工事では、システムの導入などに要した費用を発注者が一部負担する。

 下布野歩道工事は土量が1000m3をわずかに超えていた。同社はICT施工が今後、小規模工事にも拡大するのは間違いないとみて、受注後に三次河川国道事務所に働きかけてICT活用工事に採用してもらった。

ブルドーザーのシステムを搭載

 この現場では、バケット容量が0.11m3の排土板付きミニショベルを使用した。ICT施工に必要な機器の装着などは、日立建機日本が手掛けた。対象が排土板なので、ブルドーザーのMGシステムを利用した(写真2)。3次元データを基に、オペレーターの操作をサポートする。

写真2■ 排土板に取り付けたICT施工機器。トータルステーションがターゲットを捕捉して、位置を計測する(写真:加藤組)
写真2■ 排土板に取り付けたICT施工機器。トータルステーションがターゲットを捕捉して、位置を計測する(写真:加藤組)
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 位置の計測にはトータルステーション(TS)を採用した。当初はGNSS(衛星を用いた測位システムの総称)を使う予定だったが、建機が小さく、設置する2つのアンテナの離隔が確保できなかったので断念した。

 現場が狭いので、TS本体は道路の反対側に置いた。そのため、大型車が道路を通ると、TSがミニショベル上のターゲットを見失った。ただ、自動で復帰するので、施工に大きな支障はなかったという。

 建機が小さいことによる苦労もあった。現場を担当した加藤組の玉村仁嗣土木主任は、「本体が軽いので、土砂を抱え込みすぎるとクローラーが空回りした」と振り返る。地面の凹凸に影響されやすく、安定感を欠く場面もあった。それでも、現場の丁張りが不要になるなど、施工の効率は高まった。仕上がりの精度も格段に向上したという。

 MGの導入に要した費用の一部は発注者に負担してもらえたが、「目先だけ見たら大赤字だった」と同社の原田英司土木部長は認める。

 しかし、原田部長は気にしていない。「次のステップに行くための実証実験と位置付けている。3次元データの扱い方など、多くのことを学べた」(原田部長)

 この工事の経験を基に、日立建機は18年1月、排土板に3次元マシンコントロール機能を搭載したミニショベルを発表した。

 「ニーズがあるから建機メーカーが発表したのだろう。我々が目指した方向性は間違っていなかった」。原田部長はこう確信したという。